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ありえねぇ !! 3話目 後編

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「竜ヶ峰が【良い】ってよ。ほれ」

バーテンベストから開放し、膝の上に乗せなおすと、今度は新羅の手首を引っ掴んだ。

手を、帝人の頭まで判り易く導いてやる。
新羅はセルティの影で作った黒手袋を嵌め、確かにぐりぐりと帝人の黒髪を捕らえ、ぐしゃぐしゃにする勢いで強く撫で回した。
セルティも自分も、それを目の当たりにしているというのに、またもや新羅は暫くして、楽しげに首を横に振った。

「凄いな。私には全然わからなかった。これは【異常】だ。帝人君の首幽霊は、確かに静雄の膝の上に存在するというのに、私の目には何も映らない。無機物である手袋を媒介に、触れている筈なのに、こっちも全く感覚一つない。
帝人君の首は、どうやら【生霊】というカテゴリーから完全に外れている。しかも、何か別の力が働いていると考えられる。それも人外のね」

「どういう事だ?」

「ここに存在している筈なのに、私の目も手も一切彼を認知しない。どころか、静雄のベストに包まれていたのに、何も変わっていなかったように私の目に見えた。
つまり、ミカド君の首は無意識だと思うけれど、私に何かの怪しい力を使い、私の視覚を【支配】し、自分を【居ない者として扱え】と命じているのだと思う」


《それって私……、化け物だったって事になるじゃないですか!!》
「おい、竜ヶ峰、気持ちは判るが、直ぐにベソかくな。男だろう」

大きな青い瞳に、じわりじわりと涙を溜め始めた彼の頭を、静雄とセルティはぐりぐりと撫で回した。

「最高だよミカド君!! 君の存在は、私に自分の夢を叶えるもう一つの手段を与えてくれた。すなわち、もし私がセルティを残して死んだとしても、私は永遠に彼女がこの世に存在する限り、妖怪になって彼女に取り憑き、共にあり続けることができる。そういう可能性を、実際に示してくれたんだ♪」

《……、妖怪って…私、そ、そんなぁ……、ふぅぅぅぅぅ……ふぐっ…えっえっ………》


「ああ、もし私に帝人君が見えていたら。その生態を調べるには、絶対解剖が必要なのに!!」

『新羅の馬鹿!!』
「お前、ちょっと黙ってろ!!」
「……ぶへっ、ぐほっ!!」

セルティの肘鉄と、自分の長い足が見事に新羅の腹に決まった。

【解剖】なんて台詞に怯え、ますますえぐえぐと泣き出してしまった帝人の首を、更にぐりぐりと撫で回しつつ、静雄は床に転がり、悶絶する新羅を、足でもう一回蹴り転がした。


「てめぇが恋人と同じ、不死になりたがっているのは勝手だ。俺の身体も解剖してぇって、常日頃喚くのだって大目にみてやらぁ。だがよ、首しか無くなった帝人相手に、化け物? 妖怪? 止めが解剖?
ちょっと調子こいてんじゃねーか新羅? 大体今日は、帝人の生霊を、どうやって体に戻してやるか、その手段と方法を聞くために来たんだろが。御託は後回しにして、とっとと調べた事を話しやがれ。それとも……今ここで死ぬか?」

恫喝に、飛び起きた新羅が「心の底からごめんなさい」と、テーブル上に正座し、静雄の膝に鎮座している筈の首幽霊に向って土下座する。

となると、根っこからお人よしな帝人の事だ
彼の方が慌ててしまって、涙まで引っ込んだ。

《いいんですいいんです、お願いですから頭を上げてください。年上の方が、しかもお医者様が、そんな簡単に土下座なんてしちゃ駄目です!!》

セルティが自分の愛用のPDAを貸してくれ、帝人がボールペンを口に咥え、同じ文章を入力した。
それを受け取り、彼女が再び恋人の目の前へと差し出すと、新羅は満足げに頷いた。

「うん、そうだね。ちなみに今私の目の前からボールペンが消え、PDAの文字は自動入力されているように見えたよ。仮説の裏付けはもう十分のようだ」


新羅はよいしょとテーブルから降りると、床に置いてあったノートパソコンを引っ張り出し、改めて画面を開いて乗せた。


「ミカド君の霊が首だけになり、記憶障害を起こした件だけど、私が今の所思い当たるのはこの【妖刀、罪歌】が関わっているという事だけだ」

パソコンの画面には、古美術商が喜びそうな、古めかしい日本刀の写真が掲載されていた。
刀が作られた過程、手に渡った経歴、その他の歴史詳細が書かれていたが、文字が細かすぎ、静雄は初っ端から読むのを放棄した。

「この現代に妖刀? ふざけてんのかてめえ」
「所が静雄も当事者なんだよ。覚えてない? 最近起こった【切り裂き魔】事件。あの騒ぎを起こした首謀者を封じたのがこの刀だったと言えば、理解してくれるかい?」
「あー、あれか。俺を好きで好きで堪らないとか言ってた、憑き物集団」

タバコに火をつけ、紫煙を天井に向けて吐き出す。
一応膝の上の帝人に気遣っての事だ。

それは本当に、つい十日前の話だった。
三流雑誌の取材記者『贄川修二』が夜、オカマ言葉で『愛シテル』を叫びつつ、出刃包丁を振り回して、静雄に襲い掛かってきたあの事件。

男を力技で退治したが、何か落ち着かず、新宿まで行って臨也に喧嘩を吹っかけた。
だがその戦闘開始直後、駆けつけたセルティが教えてくれたのだ。

ネットで『罪歌』と名乗るハンドルネームの奴らが集団で『平和島静雄、愛シテイル。愛シテイルカラ殺ス』とか、訳判らない変な愛を喚きつつ、無差別に切り裂き魔事件を起こし、増殖をしているのだと。
しかも新たな【切り裂き魔】となった者達まで含み、徒党を組んだ彼らは、西池袋公園に集結し、静雄を【愛スル為】に待っているのだという。

結果、臨也との喧嘩などほっぽりだし、急遽セルティの黒バイで運んでもらい、出向いた公園で、赤い目をして刃物を持った老若男女100人以上と、一人でやりあう羽目になった。

あの夜。

【愛シアイマショウ!!】と、熱烈に切りつけてくる奴らを、殺さないように片っ端から蹴散らしていくうち、何故か敵だった奴ら皆が、急に憑き物が落ちたみたいに動きが止まった。
その時彼らは全員、記憶をふっとばし、西池袋公園で刃物を握っていた己自身に呆然自失していた。

また静雄自身、生まれて初めて化け物じみた自分の怪力を、支配できたきっかけを作ったのだが。


(あの、忘れがたい事件を引き起こしやがった、俺の知らねぇ【首謀者】とやらを、止めたのがこの日本刀?)


その刀の写真のすぐ真下に、来良の制服を着た少女の写真がある。

「誰だこれ? 何か見覚えがあるような無いような」
「『園原杏里』ちゃんだよ。ほら、いつも帝人君と紀田君と三人でつるんでいたでしょ?」
「……あー、そういや居たな。いかにも学級委員って感じの真面目っ子。それで?」

「この子がね、【罪歌】だったんだ」

静雄は目を眇め、まじまじとその少女の顔を見た。

「正確には【妖刀罪歌】をね、刀がもう二度と悪さしないように、その身に封じて五年間も、じっと耐えていた健気な子だ。静雄、よく覚えておいてね。結果的に、君はこの子に助けられたって事を」


★☆★☆★


「五年前にも、池袋では一時、切り裂き間事件が起こっていた。私達が丁度、来神学園を卒業した頃だよ。