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並盛亭の主人2

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出会いが出会いだったこともあって、綱吉は気にも留めていなかったが、雲雀は客に対して愛想というものがない。
物腰は丁寧だが会話は決して多くないし、必要なことを話して聞き取るとすぐ作業に戻ってしまう。
(…口下手、なのかなぁ)
いやしかし、一度口を開けば先程のように容赦ない攻撃がくるから、それは考えにくい。
「ここでは僕がルールだよ。僕の態度が気に入らなければ来なきゃ良いんだし、それでも構わないっていう客は、君やあの人みたいに続けて足を運んでくる。今までずっとそのスタンスでやってきたし、これからも変えるつもりはないよ」
「あ…そう、ですか」
なんとも自分本位なルールだが、雲雀が言うと妙に納得できた。
「えっと、雲雀さん的には、『文句があるなら俺の飯を食え』ってことなんですね」
「そういうこと」
愛想のなさを差し引いてもリピートしたいと思えるほどに自分の料理は旨い、そう言いたいのかもしれない。
(確かにな…美味しいもんなぁ、雲雀さんの料理)
食べたことのあるメニューをあれこれ思い出すだけで空腹感が増してきて、綱吉は再び鳴き出しそうな腹を慌てて押さえた。
その瞬間を見られたらしく、ちょうど振り返った雲雀にまた笑われてしまう。
「…すみませんね、欠食児童で」
「まだ何も言ってないだろ」
「でも言いたそうな顔してます。俺が先回りしなかったら、絶対言うつもりだったでしょう、雲雀さん」
「どうかな」
ふ、と笑みを零した雲雀が、できあがった料理を載せた盆を持って厨房側から出てくる。
「ほら、食べな」
「ありがとうございます」
綱吉の前におにぎりと味噌汁、それに茶の注がれた湯飲みを並べ、雲雀はすい、と傍を離れた。
「雲雀さんは食べないんですか?」
「僕はこっちで食べるから」
雲雀はそのまま老紳士が座っていたテーブルへ向かい、カップとデザートプレートを下げて厨房に戻る。
「いくらなんでも、店主が客と肩並べて昼ご飯、っていう構図はおかしいでしょ。僕だって、その辺りの線引きくらいはするさ」
「!あ、そ…そうですよね」
食器を洗いながら雲雀に言われて、綱吉がはっと我に返る。
叱られて殴られて撫でられて軽口をたたいて、というやりとりをしていたせいか、綱吉の中で雲雀との距離感が少し曖昧になっていた。
そうだった、ここまで便宜を図ってもらったとはいっても、自分はあくまでもこの並盛亭に通い始めたばかりの『客のひとり』でしかなく、まだ『店主』と親しくしているわけではなかったのだ。
「じゃあ、お言葉に甘えて」
なんとなく居住まいを正した綱吉は、痺れた右手を上げて不格好な合掌を作り、ぺこりと小さく頭を下げる。
この先は雲雀に提供してもらった料理を美味しく食べるのが、客である綱吉の『仕事』だ。
「いただきます」
「どうぞ」
綺麗な三角形をかたどるおにぎりを手に取って、山のひとつへぱくりとかぶりつく。
むぐむぐと咀嚼するほどに、米の甘みが口の中いっぱいに広がっていき、ほうっとため息がこぼれた。
「おいしい…」
「海苔でも巻いてあげれば良かったかな、今更だけど」
「いえ、このままで充分です」
具が詰めてある以外は塩も殆ど振られていないシンプルなおにぎりだけれど、これならお世辞じゃなく何個でも行けそうな気がする。
あっという間に一つ目の鮭おにぎりを平らげ、次に手を伸ばす。
二つ目の具はたたき梅で、きゅっと酸味のアクセントが効いていて、こちらもまた食が進む。
くううう、と声を上げたいのをぐっとこらえて二つ目も食べきり、綱吉は豆腐とわかめの味噌汁を一口すする。
これがなんとも美味かった。
「……!」
「君の目は口ほどに物を言うね。表情がまるわかりだ」
どこかから引っ張ってきた椅子に座って茶を飲む雲雀に、ごきゅりと口の中身を飲み込んで綱吉は主張した。
「だって、だって美味しいんです!」
右手が麻痺しておらず左手に三つ目のおにぎりを持っていなければ、テーブルを叩いてでも言いたいことだったが、さすがに無理だし行儀も悪いのでやめておいた。
「そこまで言ってくれれば、僕としても食べさせた甲斐があるよ」
満足そうに笑みを零した雲雀も、取り分けておいた自分のおにぎりに手を伸ばす。
ただし彼は、ひとくちめを噛みしめても綱吉のように表情に出てくることはなく、自分の仕事ぶりを確かめるようにかすかに一つ、頷いただけであったが。







作品名:並盛亭の主人2 作家名:新澤やひろ