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彼の見た夢

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「…どーします?」
俺はにんまりと笑い、冷や汗でびっしょりと濡れたスーツの男を見降ろす。
馬鹿で愚かな男だ。女に唆され、会社の金を使い込み、妻には逃げられた。
残ったのは払いきれない借金と多額の生命保険。
この男に残された道は少ない。
まぁ仕組んだのは俺だけどね。
「ハァ、ハァ。」
男は肩で息をする。
全速力で走ったみたいに心臓がバクバクするんだろう。
「どーしましょうかねぇ?」
俺は首を傾げ、んー、と考える仕草で男を見た。
「死んじゃいますか?」
男の顔色が変わる。
俺を見た。その顔をは悲壮感に満ちている。
「他に手、あります?」

男に残されたのは多額の生命保険と、子供。
妻に置いてかれた可哀想な子供だ。
その子供にも多額の生命保険をかけさせておいた。

そう、男に残された道は少ない、が、一つではない。

「ハァー、ハァー。」
男の呼吸がゆっくりになってきた。
ようやく心臓が落ち着いてきたのだろう。
「…決まりました?」

「・・・俺を、殺してくれ。」

「え?」
それは俺にとって意外な言葉だった。
絶対この男なら子供を差し出すと思っていた。
そういう男だからこそ今回選んだのに。
自分を慕ってくれた子供を殺して、自分だけ生き残ることでさらなる苦痛をこの男に与えようと思っていた。

「お、俺ならどうなっても良いんだ…だ、だけどあの子だけは、あの子は、し、あわせに…。」
男は泣いていた。
『僕のことを叩いても構いません』
あの日の帝人くんが男と被る。

まだ何か言う男を置いて、俺は部屋を飛び出した。
ああ、これだ。この俺の胸を打つ僅かな刺激がマズイ。
俺が必死に保ってきたものが一気に崩れそうだった。
部屋に逃げ込むように走りこんだ。けれど、部屋にはやっぱり帝人くんとも思い出がある。
ああ、なんで一緒に暮らしてしまったんだろう。
会うだけでは足りないと、欲を出した俺への罰なのだろうか。

「あ、」
俺はうつ伏せになって床へ倒れこむ。
無意識に声が漏れる。
どうしよう、これは非常にまずい。
「あー」
どうして手放してしまったんだろう、それに手放して平気でいられるなんて思ったんだろう。
俺は馬鹿だ。
「あぁー、あー」
絶対思うことなんて無いと思ってた。
だって、今まで俺の手の中で何度もそう嘆いてきた人間がいたとき、俺はなんて馬鹿な奴らなんだろうって嘲笑してきたんだ。
人間である限り、誰にもいずれ訪れるものだ。今から願わなくても、いつか叶う。
しかもそう願う人間の半数は生きるための努力を怠っていたから。
だったらそんな愚かな願いなら、と、俺はそれを叶えるためのお手伝いをたくさんしてきた。

でも、毎回理解できなかったし、これからも理解できないと思ってた。今の今まで。

「しっ…。」
言いそうになって俺は自分の手の甲を噛んだ。
絶対、絶対言うもんか。俺の最後のプライドだった。
願うはず無いんだ、俺は。


『死にたい』だなんて。


知らなかったな、ボロボロと無重力に従い勝手に落ちていく涙をそのままに、俺は初めて理解し始めていた。
帝人くんに会うまで人に愛されることもその幸福感も知らなかった。
帝人くんに会って、初めて愛されることとその幸せを知った。
でも、

その全てを失う、という体験をしたのは今回が初めてだ。

今まで俺の掌の上で愛だとか金だとか、そんなものを無くして壊れて行く人間を見て、なんだそれ、って思ってた。
そんなものを失うくらいでどうしてそう、容易く狂えるのか、と。
俺も今、失ってみて初めて狂えると感じた。これは、確かにオカシクなれる。
皮肉にも、帝人くんを失う辛さを知って初めて人間に優しくなれる気がする。
いまさら、だけど。

今日は何日目なんだろう。帝人くんが居なくなってから。
もう何年も前な気がするし、2週間前のような気もする。
最近はまともに体も動かないし、疲れて寝ることも多くなった。
夢の中には帝人くんがいるから寝るのは嫌いじゃないけど、起きた時帝人くんが居ないことを思い出させるから怖かった。

俺は夜道を歩く。
今日は随分暗い日だ。月は雲に陰って、この道は街灯も少ない。
自分の歩いている感覚は余りなくて、しかも此処が帝人くんが前に住んでたアパートに近くに似ている気がする、そうか、夢かもしれない。
「…臨也さん?」
懐かしい声に呼ばれた気がした。
振り返ると、フードを深く被った人間が立っている。
帝人くんかもしれない、これが夢ならありうる。
「だぁれ?」
俺は微笑んだ。
「やっぱりアンタが臨也さんなんだ。」
そう言われた、と、思った次の瞬間、その人間が俺にぶつかってきた。
俺は倒れこむ。
「アンタが居なければっ…父さんはっ!」
怒った声がした。

俺は走り去るそのフードの男を見送ってぼんやりと自分の腹を見た。
ナイフが刺さっている。
けど、痛みは無い。もしかすると夢かな。
なんだか異様に眠くなってきた、俺は目を閉じて蹲る。

これは現実だろうか、それとも夢だろうか、
そもそも何処からが夢で現実なんだろうか。

ねぇ、神様。
俺は初めて神に祈る。
夢でも良いから俺に帝人くんと会わせて下さい。

作品名:彼の見た夢 作家名:阿古屋珠