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Eternal White

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「下賎の者に名乗る名前なんて、ないっ」
「じゃあ、ヴォルフラムって呼ぶよ」
「ぼ、ぼくの名前をなんで知ってるんだっ!」
 小さな子供が、一歩後ずさる。
 さすがに何度も魔鏡で行き来してれば、この状況だって分かるってもの。できるだけ安心させるように、そっと手を伸ばした。
「偶然だよ、ヴォルフ。ひとりで心細かったんだろう? おれと一緒に、避難しよう。おれも、迷子なんだ」
 見ず知らずの男の手と顔を何度か見比べて、ヴォルフラムは一歩踏み出す。モコモコに着膨れた小さな子供の手が、おれの手を掴む。
「しかたない。ぼくが案内してやる」
「ありがとう」
 小さいころから不遜な三男坊に、結構最悪な状況下だというのに笑ってしまう。つないだ手は手袋越しだというのにとても温かい。
「じゃあ、ヴォルフラム。この辺に、……そう、洞穴とか見かけなかったか?」
「ない」
 男らしいふたつ返事。さっきまで泣いていたはずなのに、そんな弱気はどこかへ行ってしまったようだ。
「……じゃあ、おれたちふたりが、雪を凌げるような穴とか」
「さっき……大きな木の穴は、見た」
「じゃあ、そこに行こう。戻れる?」
「あたりまえだっ」
 小さい手が、大きな手を引く。よく見れば、さっき歩いてきたらしい小さな足跡が雪の上に残っている。
 一生懸命歩く姿は可愛いけれど、ここは体力温存を図りたい。小さな身体を抱き上げると、涙のせいか凍った髪の毛が頬に触れた。あとでこの顔もちゃんと拭いてやらないと、凍傷になりそうだ。
「どの樹か、見つけてくれよなヴォルフ」
「うん」
 小さな足跡を慎重に辿りながら歩き始める。
 風は冷たいし、雪だって幾ら木々が防いでくれるからって降りこんで来ないわけじゃない。ただ、抱き上げたぬくもりが、ひどく恋しい。
「…あった! あの樹だ」
 もみじのような手が、見ろ、と頬を叩く。この辺の手加減は、ちゃんと教育してくれとあとで文句をつけようと誓う。
「あれか……。ヴォルフ、一度降ろすぞ」
 大人数人がかりでようやく幹を一周できそうなほど、立派な太さを持った樹が視界に入る。ヴォルフラムが駆けていくその先には、どうにかふたりが入り込めるかどうかといったサイズの洞があった。
 溜まっている雪を掻き出し、そこにはまるようにして座ると、小さな身体を手招く。
「……音が聞こえない」
作品名:Eternal White 作家名:架白ぐら