Eternal White
腕の中に収まったヴォルフラムが、不安げな声を上げる。
「風と雪を、この樹が防いでくれてるんだよ」
手袋をはずし、凍りついた顔を揉んでやる。柔らかな頬は真っ赤で痛々しいけれど、本人は少しだけくすぐったそうに身をよじった。
「……あにうえは?」
頬を擦っていると、ぽつりとヴォルフラムが零す。ほんの少し前までひとりで泣いていたんだ。まだ不安があって当然。
「大丈夫。もう少ししたら、見つけてくれる」
「本当に?」
「本当だよ。ヴォルフラムがいい子にしてたら、必ず見つけてくれる」
頷いてやると、ようやく笑顔を見せてくれた。ヴォルフラムの笑顔は、このころから強力で、こちらもうれしくなってしまう。
手袋をはめ、小さな身体をさらに抱き寄せる。
「また雪の中で迷子になったら、穴の中に避難するんだぞ。そうしたら、コンラッドがちゃんと見つけてくれるから」
「……穴? どうして?」
「ん〜。熊とか冬眠するのに、穴の中に入るだろ。温かいんだよ。さっきより、今のほうが温かいだろ?」
「うん」
もちろん抱き寄せているって点でも温かさは違うんだけど、それを説明しても分からないことだろう。だったら、ちゃんと避難しろって教えるほうが先。
小さいヴォルフラムは素直に頷いて、人の胸に頬を埋もれた。
生きている、温もり。それが愛しくて、何度も小さな背を撫でる。
「大丈夫。必ず、助けるから」
今の君も。未来の君も。
「……信用、している。ユーリ…」
もぞりと腕の中の身体が動いて、見慣れた瞳が瞬く。
「…………ヴォルフラム!?」
「……夢、なのか。ぼくは、幸せな夢を……見ているのか?」
小さいころの面影は微か。今のヴォルフラムが、手を伸ばしてくる。
皮の手袋が頬を擦る。驚いて見開く瞳の中で、確かにヴォルフラムは生きて、語りかけてくる。
「夢じゃないと、思う。さっきまでおれ、小さなヴォルフラムと一緒にいたんだぜ。その、魔鏡の力で」
「そうか。……最初から、ぼくのところに来い」
「無茶言うなよ。おれだって、来れるとか思ってなかったんだし」
手袋を外し、強張っている頬を揉んでやる。さっきとは違って少し固い感触は、彼が成長した証。
「大丈夫か。怪我してないか?」
「……ああ。吹雪さえ止めば、自力で城に戻れると思う」
作品名:Eternal White 作家名:架白ぐら