Eternal White
最初は戸惑い交じりだった声も、今ははっきりしている。これならきっと大丈夫だと思える。
「心配をかけて、すまない」
「ん……。無事なら、いいよ」
掌に伝わってくる体温はけっして温かくはないけれど、生きている。そう分かるから、乾いて割れた唇を何度も吸ってやる。
「ビーレフェルト城まで、グレタと一緒に迎えに行くから」
「途中で遭難したらどうする。血盟城で待っていろ」
「嫌だよ。早く、ヴォルフラムに触れたいからね」
やさしくしていたつもりなのに、舌に血の味がする。切れてしまった唇を舐めてゴメンと呟くと、ヴォルフラムはかまわないと首を振る。
「……ぼくも、ユーリ触れていたい。だが、しめしがつかない」
「そういう野暮は言わせないさ。大体、お前、遭難中だろ。変な気まわす前に、無事に……帰って来いよ!」
こうやって抱き合っていると忘れそうになるが、本来、のっぴきならぬ状況のはず。
そうだな、とヴォルフラムは笑う。
「ああ。ちゃんと戻る。だから……」
待っていろ、と耳元で聞こえたやさしい声。
それが、自分の名を呼ぶ声と被る。
「ユーリ、大丈夫ですか? こんなところで、寝ないで」
「………あぁ、コンラッドか。大丈夫。寝てない。ヴォルフラムに会ってただけだ」
心配げに覗き込む名付親の肩を叩き、足元に転がっている魔鏡を軽く蹴る。それだけで察したコンラッドは、困ったように肩を竦めた。
「だから唇が、紅を引いたように赤いんですね」
「……マジ?」
「ええ。ヴォルフラムは、無事でしたか?」
掌で唇を拭うと、ハンカチが差し出される。血をつけるのはなんとなく悪くて、いらないとつき返す。
「うん。ちょっとしんどそうにしてたけど、まだ大丈夫。早くも迎えに行ってやろう。あんたが見つけてくれるのを待ってるぜ」
モルギフを手に立ち上がる。それに合わせて、コンラッドも身体を起こす。
「はい。移動の準備は整っています。天候も、今なら行けますよ」
「さすが手際いいよな。行こうぜ、コンラッド」
鼓舞するように、誰よりも心配性の次男の腕を叩いて走り出す。廊下の向こうで、グウェンダルとギュンターが外套を手に待っているのが見えた。
何度か頬を突付かれ、目を開ける。
「熱っ……!?」
途端、胸の魔石がひどく熱いことに気づく。主人の声に、心配げにレーヴェが嘶く。
「……すまない。大丈夫だ」
作品名:Eternal White 作家名:架白ぐら