Eternal White
その変化は、とてもヴォルフラムらしい。
「ぼくにうそを吐くつもりか?」
「いや、つきませんから。ほら、そろそろ行かないと……マズいんじゃないか?」
指先には、膨れた頬の感触。いつまでも触れていたい気持ちを振り払うようにして、促す。
「ああ、そうだな。いいか、ユーリ。ぼくがいないからって浮気するなよ」
「しませんって」
今までも、ヴォルフラムが任務で城を離れることは幾度もあったし、かなりの期間会わなかったことだってある。
だから今回が特別ではない。分かっていても、さすがに今回ばかりは気が重い。それはヴォルフラムも察しているのだろう。
「見送りはいい。ここで」
彼もまた、名残惜しい気持ちを払うように、首を振る。そのまま歩き出そうとする手をとり、慌てて片手で首にかけてある魔石を外した。
「これ、持って行って」
「…………これは…、いいのか?」
ずっと首から下げている魔石は、かつてスザナ・ジュリアが持っていたというもの。ヴォルフラムだって、この石のいわれは知っている。
いいから、と掌に押し付け笑う。
「うん。おれは一緒に行けないからさ。お守り代わりに持っていけよ。おれがずっと身につけていたもんだから、魔王のご利益つき」
「……分かった。借りて行く」
ヴォルフラムも笑って頷くと、首から下げて外套の中へと石を隠す。
そうして上げた顔に触れ、最後に唇を重ねる。次にこの温かな唇に触れられるのは、春先。長い別れを惜しむように幾度も吸えば、離せと胸が叩かれる。
本当はもっと触れていたいけど。それこそ、キリがない。
「気をつけろよな」
みっともなく、情けない声と思う。
「ユーリは心配性だな」
それにくすりと笑う吐息が、近い唇にかかる。もう一度啄ばんで、ヴォルフラムは離れていった。
「閣下、今日は諦め戻りましょう」
風の音に負けないように張り上げた部下の声。それに聞こえない振りをして前を見据える。
眞魔国の冬は元々厳しいが、今年の冬はまれに見る寒となり、山間では猛吹雪が続いていた。山と山に挟まれた裾野の集落には、早々に避難命令を出していたが、やはり住み慣れた家から離れるのを嫌う者達もいる。その結果、雪に閉ざされてしまい、十二分に溜め込んでいたはずの燃料も尽き、救難を求めて来たというわけだ。
「愚か者達め……」
作品名:Eternal White 作家名:架白ぐら