Eternal White
山の気候は変わりやすい。ビーレフェルトの出城を出発したときには空は晴れていたのに、数刻経っただけで前も見えないほどの吹雪に見舞われている。
骨飛族が知らせてきた救難の訴えは4日前。そろそろ助け出さなければ、彼らは凍え死んでしまうことだろう。
だが、無理を通して部下を損なってしまうことは、司令官として最もやってはならないこと。
もどかしさに、怒りがこみ上げる。
すべてを吐き出すように息を吐くと、手綱を握る手を離し、無理な進軍をさせた馬の首を撫でてやる。
「もう少し頑張ってくれ」
愛馬に声を掛けると、踵を返す。
「帰城するぞ!」
その指示に一隊の連絡兵が、骨片を通じ出城に帰還報告を入れる。
――それが、フォンビーレフェルト卿ヴォルフラム率いる一隊の、最後の生存報告だった。
その年も雪がよく降っていた。なかなか表に出ることも出来ず血盟城内に閉じ込められていた、寒い冬。
つかの間の晴れの日に、真っ白な雪の大地に行きたいと、ヴォルフラムはせがんで馬を出してもらったことがある。城からほんの少し離れた山裾の草原に向かえば、そこは彼が望んだ通りの雪の大地だった。
「ちっちゃいあにうえーっ、あれ見て!」
風邪をひかないようにと着膨れするほど着物を着せられ、もこもこになった身体で雪の中を走る。その姿は、走るというより転がると言った方が正しい。
「ヴォルフラム、あまり遠くへ行くんじゃない」
供の兵士に馬を預け、コンラートが後ろをついて行く。もちろん、ヴォルフラムがその言葉を聞いているはずもなく。どんどん先へと転がってゆく。
「ヴォルフ、止まって!」
遠くにあったはずの森のほうまで転がる勢いの弟に、コンラートの声が少し硬くなる。護衛の兵士らも走り出す。
「あ、何かいるよ」
真っ赤になった頬をほころばせ、ヴォルフラムは森の中へと入って行く。最初、出かける前に決して立ち入ってはならないと言われた森の中へ。
白から黒へ、世界が変わる。
「……あれ?」
追いかけていた影はもう見当たらない。慌てて振り返っても、後ろにはもう誰の姿も、さっきまで居たはずの雪原すらも見えない。
ただひとり、暗い闇の中に残された。
「あにうえ……?」
急に心細くなって、絶対の保護者の名を呼ぶ。
「ちっちゃいあにうえ、どこ……?」
作品名:Eternal White 作家名:架白ぐら