Eternal White
途切れ途切れの記憶をかき集めれば、帰城途中、雪崩に襲われた気がする。もちろん、大規模なものでなかったのは、今こうして無事なことでも分かる。ただ、あのときは、いきなり白い何かが襲ってきて、一隊が散り散りに逃げた……はずだ。
「誰か、っ……」
声を張り上げようとして、胸の痛みに息を呑む。したたかに打ちつけたらしい身体があちこち痛んで、これでは大きな声も出せそうにない。
肩に、頭に雪が積もっていく。このままここに居ては、凍死するだけだ。
手綱を手に立ち上がると、悲鳴を上げる身体に鞭打って鐙を踏む。
「レーヴェ、お前に任せる。少し移動したい」
よく慣れた馬は、主人の言葉を理解してかゆっくり歩き出す。馬上から振り返ってみても、白以外、なにも目に入らなかった。
どこに向かうかは、野生の勘任せという心もとない状況ではあるが、認めたくはないが遭難時、よほど動物のほうが頼りになると思う。
徐々にまた激しくなる雪吹雪。手綱を引いて止まらせると、近くの雪溜まりに触れる。
――いいか、ヴォルフラム。もしまたこんなことがあったら、ちゃんと避難するんだぞ
遠い記憶の中で、懐かしい声がする。
――洞窟とか、とにかく雪から逃げられる場所とかさ。何もなければ、雪の中に穴を掘るんだ
あれを教えてくれたのは誰だっただろうか。すぐ上の兄だった気もするし、違う気もする。
だが、それは些細な悩みだ。いますべきことは、この吹雪から身を守ることだけ。
「炎に属するすべての粒子よ、創主を屠った魔族に従え…っ」
雪溜まりに向かって多少手加減を加えた炎術を打ち込む。と、蒸気が上がり、雪の中に穴が開く。幾度かそれを繰り返し、内側の雪を叩き固める。どうにかヴォルフラム自身と馬一頭が避難できる空間を作るころには、天候はまた激しさを増していた。
渋るレーヴェを穴の中に入れ、雪洞の上には青いハンカチを括りつけた剣を刺す。
入り口は予備の外套で塞ぎ、足元は野営用の敷布を敷く。その上に馬と座ってしまえば、あとはもう何もすることがない。
ヴォルフラムの愛馬だから火を怖がることはないから焚き火でも出来ればよいのだろうが、残念なことにヴォルフラムの荷物の中にそういう用途を成すものはない。だから一人と一頭が身を寄せあって暖を取る。
「……昔を、思い出すな」
作品名:Eternal White 作家名:架白ぐら