Eternal White
白い毛を撫でながら、思う。そうだ、たしかあの雪の森で迷子になったときも、こんなことがあった。
黒い……そう、黒い熊と一緒に雪を凌いだ。
頭上で、レーヴェが鼻を鳴らす。まるで、自分は熊じゃないと主張するかのようなタイミングに、自然と頬が緩む。
本当は、かなり絶望的な状況下のはずなのに。何の不安も抱えていない自分がおかしい。
胸の下で輝く魔石のお守りのせいだろうか。それとも、懐かしい記憶のせいだろうか。
「レーヴェも休め。起きて吹雪が止めば、皆を探し出城に戻るぞ」
自分の鼓動ではない別の鼓動が、肌越しに伝わってくる。目を閉じれば、あのときと同じような気が、した。
骨片を通じ骨飛族がもたらした知らせに、グウェンダルは絶句する。そんな兄の異常に気づいたコンラッドが、彼の手から零れ落ちた走り書きのメモを取り上げた。
「これは…っ、グウェン!」
「騒ぐな。……どうしようもなかろう。ヴァルトラーナに任せるほかない」
一瞬で自失から立ち直ったグウェンダルの声は、重い。
フォンビーレフェルト家からの急の知らせは、ヴォルフラムの部隊が行方不明になったというもの。最後の連絡から一昼夜。遭難は確実だろう。
ビーレフェルト地方は、他の豪雪地域に比べれば楽観できる状況だったはずだ。だが、その分雪慣れしていない。
「ユーリに知らせてきます」
「知らせてどうする。あれを外に出すなど、言語道断だぞ」
「だけど、知らせないでどうするんですか。それこそ、大問題だ」
睨み合いは数秒。大きな溜息を吐いて、グウェンダルが視線を逸らす。任せる、という態度にコンラッドも踵を返す。
大体、現状で出来ることなどほとんどない。フォンビーレフェルトの部隊が遭難したのならば、それを救援するのは彼らの仕事だ。こちらに知らせてきたのは、ヴォルフラムの家族が血盟城にいるからに過ぎない。それによって、国政の指揮を執る人たちに、心労が増えるというだけ。
だからグウェンダルはユーリに知らせるのを一瞬拒んだし、その気持ちも分かる。なんといってもこの強面の長兄は、魔王に厳しいようでいて、意外と甘い。
「ユーリ、入りますよ」
魔王の間にいるはずの主人に声をかけ、重いドアを開ける。
作品名:Eternal White 作家名:架白ぐら