王子様とゲーム。
「王様だーれだ!」
やけっぱちで世良がかけ声を叫ぶ。
あれから数ターンを繰り返していくうち、食堂は異様な熱気に包まれていた。
一応が、『今日限り無礼講。ただし肉体的・精神的に翌日に引きずるような罰ゲームはしない』というのが最初の取り決めだったが、それでも外れ籤を引き続ければ精神的に鬱憤が貯まってくる。達海の予想通り、回を追う毎に罰ゲームはルールすれすれ、苛烈さを増していた。次の犠牲者は誰だ、参加者の顔はだんだんと剣呑になっていく。
そんな中で、一人つまらなそうにしているのは吉田で。
「あ、またボクだ」
のっそりと上げられた吉田の手に、周囲から悔しげな声が漏れた。
「またジーノか……アイツなんか憑いてるンじゃないのか?」
達海がぽつりと呟く。椿も曖昧な表情を浮かべ、頷いた。
男は椿に先ほど、籤の当たる確率は平等だと言ってはいたが、その確率においても吉田だけは例外のようであった。ほかのメンバーはそれなりに偏らず当たっているのに、回を重ねる毎に、吉田は一人飛び抜けて王様を引き続けていたのだ。
「もうなんでもいいよ。1番が2番に熱烈な抱擁で愛の言葉を囁き合ったら?」
「……俺だ」
「くそう!」
そうして、吉田の幸運とは真逆に恐ろしい確率で外れ籤を引き続けているのは夏木だった。幸運の吉田と悪運の夏木、先ほどの一幕を見せられた椿としても、達海の言う通り吉田に味方するなにかが憑いているのではという気分にさせられる。
「ジーノ、今に見てろよ!」
王子様ならぬ王様からのオーダーで、がしりと村越を抱きしめ、暑苦しく愛の告白を交わして周囲をどよめかせた夏木は、日に焼けた肌を怒りに赤黒く染め さ、次のゲームだ、と世良を追い立てている。
「なんか、夏木さん可哀想ですね……」
そんな夏木から ふん、と気のないそぶりでそっぽを向く吉田に、先ほど犬の真似を強要された椿も今夜ばかりは内心夏木に同意してしまう。
「まあ、アイツのことだ。ここ一番で大逆転するんじゃねェか?」
「ううん……こんなこと言うと、王子に怒られそうですけど、そう、だといいですね」
「まあな」
傍らに座る男へとこっそりと小声で呟いた椿へ、達海もぽつりと同意する。
もっとも、それはこの場に集まる大多数の総意でもあったけれども。