晴れでも雷
「旦那、用意が出来たよ~」
佐助が、沓脱ぎ石の上に立った幸村の後ろに現れた。移動し、横に立ったと思いきや、しゃがみ込む。手を伸ばし、幸村の草履を脱がした。幸村が縁側に上がると、政宗の草履も脱がせる。
「すまぬ、佐助。」
「いいってことよ、このくらい。それよりさぁ、謝るくらいなら給料を上げて欲しいなー、なんて」
少しそっぽを向き、笑いながら現実的なことを口にした。このとき幸村は、襖が開け放たれ、床の用意がなされた部屋に入り、政宗を降ろしていた。佐助が言い終えたと同時に幸村は振り返った。
「ぬ?何か申したか、佐助?」
「・・・・・・。あー、いいってことよ。」
あからさまに肩を落としつつ、手を横に振って幸村に返答した。返答するまでの僅かな時間に、彼がため息をもらしたのは気のせいではないだろう。
「おお、そうだ。着替えを持ってきてはくれぬか?」
言いながら幸村は、政宗の横で膝立ちになり、武具を脱がしていた。
「いっけねー、わすれてた」
どこか棒読みな言葉を残し、佐助は政宗の着替えを取りに行った。佐助の様子に何も疑問を持たずに、幸村は枕元に置かれていた手拭いを手に取る。素肌が見える部分に軽く当て、汗を拭き取った。ちょうど終えるころ
「持ってきましたよ」
赤い着流しを腕に抱え、佐助が戻ってきた。幸村は佐助の腕の中の着流しを見て、目を見開いた後、瞬きをした。
「それは某の着流しでござろう?」
この質問に佐助は腕を組み、幸村を睨みつける。
「旦那、この間干しておいた着物さ、覚えてる?」
「ぬ?・・・おお!あの紺青の着物であろう?・・・・・・は!!!!」
佐助の視線には怖気なかった幸村が何かを思い出し、顔を青くした。
「そうだよね~。覚えてるよね~。旦那が転んで引き裂いたヤツだもんね~。あれ、竜の旦那に貸すはずだったんだよね~」
笑顔ではあるが、その裏には怒りに似た感情があることが一目で分かる。佐助は一歩ずつ幸村に近づいた。彼を見た幸村は尻餅をつき、後退しようと後ろに手を伸ばした。その手に政宗の手が触れた。少し驚いた様子を見せながら振り返る。目の前にいる人物に気を取られ、忘れてはいたが、政宗はまだ着替えを済ませていない。このままでは悪化してしまうだろう。幸村は勢い良く佐助の腕にあった着流しに手を伸ばし、彼からそれを奪い取った。
「ご、ご苦労であった。某が政宗殿の着替えをするゆえ、部屋の前で待っていてはくれぬか」
冷や汗を垂らしつつ、佐助に退室するように促した。佐助は肩を小さく上下に動かし、部屋を出た。幸村は佐助が襖を閉めたのを確認すると、着流しを広げ、政宗を着替えさせた。