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【土沖土】土方を何にでも利用する沖田の話

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最初のうちはやはり「叱ろう」と思っていたのだが、いかんせん、あの透明な丸い目でまっすぐ見詰められると土方は怒鳴る声を何処かへ逃がして口をつぐみたい気分になる。煙草でもゆっくりふかして、月が金色なのを見付けたときのような心地で眺めていたくなる。決して気圧されるのではなく、何かもっともっと莫大な許容である。あるいは受容とも言うべきかもしれない。どちらにせよ土方は、まるでそういう暗示にかけられているみたいに沖田を拒めないので性質が悪い。

「お前、どうして変なところに口をくっつけてきやがる」

ある晩、許すのだから尋ねるくらいはいいだろうと思って聞いてみた。底冷えのする夜だったので早々に布団へ入って寝転んだまま書類を読んでいたのだが、ふと急に気分を変えたくなったのだ。わざわざ煙草臭い部屋にやってきてわざわざ土方の布団に入り、わざわざ土方と頭の向きを反対にして漫画を読んでいた沖田が眠そうな声で返事をする。

「どうしてって、どうして?」
「質問に質問で返すな」
「土方さんあんた、いつもそうやって「どうして厠に行くのか」なんて馬鹿な類の問い掛けを人にしているんじゃあねェでしょうね」
「……人を勝手に厠にまつわる問題へ近付けるな」

げんなりして盛大に眉根を寄せると、沖田が右足をちょっと動かしたので爪先が土方の肩へ触れた。布団の中へ手を突っ込んで足首を掴むと「つめてえ!」と吠えて、振り払われた代わりにもぞもぞと引っ繰り返って布団をかき混ぜる。そしていつのまに頭の向きを変えたのかひょっこり土方の横へ顔を出して、それから温かな指で鎖骨の下に触れてきてこう言った。

「身長を測ってるんでさァ」
「……身長?」
「俺がここを噛んでたのは、覚えてますか」
「馬鹿。忘れるものか」
「十五のときですねぇ。三年前、早ェもんだ」

じゅうごという単語には様々な、本当に様々な意味があって、例えば沖田と初めて性交をしたときや沖田が初めて人を斬ったときや土方が初めて、そういう、そういう本当に色々な意味があって土方は身構える。しかし沖田の言いたかったことはどうやらそのようなことではなく、まだやわらかさの残る白い指先が、今度は土方の鼻筋をつうっとなぞる。


あれだけあちこち雨のようにキスを降らせ、皮膚の強いところへは歯を立てたりもする沖田は、そういえば鼻先や額にだけは口を付けたことがなかった。