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【コナン*パラレル】 夏の暑さは、 【快新】

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「…黒羽、そろそろ起きな」
「ん……?」

この一年で随分と浅くなった眠りは、カーテン越しにかけられた声ですぐさま覚醒する。

夢を見ない日は無い。
何も考えず、ぐっすりと眠れたらと願わない日はないけれど。

寝癖の付いた髪を手櫛で直し、自分が寝ていた布団のシーツを剥がす。
それを伊角に渡し、戸棚から新しいシーツを取り出して他のベッドも丁寧に整えた。

「伊角さん毎日ごめん…ってお客?」
「ああ、勝手に帰って良いぞ」
「了解ー…ってチビ助じゃん」
「ちびじゃねぇ!」

振り返って伊角を呼ぶと、彼は快斗に背を向けて、と言うよりも
生徒を治療中でオキシドールの匂いが僅かに香った。

真っ直ぐと伸ばされた伊角の背に隠れて生徒の姿は全く見えなかったので
女生徒かな、と思っていたのだが近付いてみるともう一人の保健室の常連、
進藤ヒカルだとわかった。
未だ成長期の訪れていないとしか思えない彼の身長は百六十を少し超えたほど。
正確な数字は知らないが、女子と変わらない身長で
チビではないと言える根拠が知りたい。

「うわ、何その膝…痛そー」
「痛そうじゃなくて痛ぇよ…」
「…あいっかわらず生意気なガキンチョだなテメー」

ひく、と頬を引きつらせてぐりぐりと乱暴に頭をなでると顔を真っ赤にして抵抗する。
まるで猫が毛を逆立てて威嚇するようだと喉の奥で笑った。

「先輩だって伊角さんより背、低いじゃんか…」
「あのなぁ、俺は平均よりあるっつの。つか伊角さんが高すぎんだよ」

元々ヒカルは、詳しくはわからないが入学前伊角に世話になった事があったらしい。
一度設定された呼び方はそうそう変更できず、未だに先生と呼べないでいる。
なんとなくしっくりこない、と口を尖らせながら以前言っていたが、
未だに慣れないようだ。

「はっ、負け惜しみ?」
「ほんっきで生意気だなぁ?」

挑むような目においおい、と呆れながら今度は別の意味で感心した。
快斗でなければ後日「お呼び出し」をされても仕方が無いような態度だ。

「こら、進藤も黒羽もいい加減にしないか」
「ずみやん~だってコイツ生意気…」
「誰がずみやんだ。いいから鍵締めるから二人とも出て行きなさい。……あと黒羽」
「はい?」
「明日も、ここ開けとくから」

明日は土曜日。
授業は無いが、部活動はある日なので一応ここに居るらしい。
告げられたその言葉に一瞬だけ息を詰まらせた。

本来ならば休日は各部の顧問がローテンションで職員室に居るだけだが、
寮の管理人と言うことで常に学園内に居る伊角は用事がない限り保健室を開けている。

周囲には真面目で優しい伊角の性格なのだろうと思われ、
他教員や各部からは感謝されているが、それが全てではない。
勿論快斗は、それが誰のためかなんて知っている。

彼は何も言わないから快斗も追求することなく、ただ一言「さんきゅ」と
困ったように笑って保健室を後にした。

本当は、こんな風に誰かを特別扱いするような人じゃないって知っている。
知っているからここまでしてもらうと少しだけ困る。

(らしくねぇことすんなよな…)

彼の優しさに救われているくせに、勝手に沸く苛立ちを抑えられなくなってきた。






「先輩~…」
「どうした?」

あのまま二人で保健室を後にして、同じ寮生なので自然と並んで歩いていた。
膝を盛大に怪我している進藤に合わせ、歩調を緩めながら
様子を見るために一歩後ろを歩く。
意外としっかりしたその足取りに安心して、珍しく弱ったような後輩の呼びかけに
こたえる声は思ったよりも優しい響きだった。

「先輩と伊角さん、仲良いよね」
「ああ、まぁ…」
「ふぅん」

自分から話を振ったくせに興味が無いような適当な返事にやれやれ、と苦笑する。
まるで兄を取られた弟のような拗ね方にガキだなと思わなくも無い。
けれど、

「お前も来るんだろ?」
「え?」
「勉強、教えてもらうんだろ?」
「………いいの?」

期待と、不安と、様々な感情を混ぜ込んで見上げる後輩が可愛いと思う。
こんな風に、綺麗な好意だけだったらどれ程よかったか。
くしゃり、と柔らかな髪を混ぜて、変な気を使うなと笑った。

「変じゃねぇよ! だって先輩また倒れたら…」
「だから、倒れねーように今日も寝てただろ?」
「でも…」

(あー…ほんと失敗した)

この少年の過剰な心配は、一度目の前で倒れたことがあるからだ。

最初のころは保健室に来ては指定席でぐーすかと眠りこけるふざけた先輩としか
見ていなかったはずなのに、そのたった一度の失敗のおかげで彼の脳内に
快斗は病弱とインプットされてしまったらしい。

伊角の呼び方といい、彼は一度そうだと認識したものをなかなか変更できない。
若いくせに融通のきかないやつだと呆れる。

そもそも、タイミングが悪かっただけなのだ。
たまたま三日ほど伊角が出張で居なかった間、普段からの睡眠不足がたたり
貧血で倒れた。
大げさに騒がれて病院に担ぎ込まれはしたが、結局ただの寝不足とわかったあとは
逆に周囲は呆れていた。
曰く、あれだけ寝ていてもまだ足りないのか、と。

しかし、ただ一人、彼だけは何かトラウマでもあるのか、
それ以降も過剰なほど心配している。
本心から心配してくれる彼を見ていると申し訳なくて、困る。
己の煩悩が引き起こすこれは、けして心配してもらえるようなものではないのだから。

「大丈夫だから、な?」
「でも…煩い、し」
「最近はそうでもねぇよ。寧ろいい感じに子守唄みたいだし」

気にすんな、ともう一度笑って置いていくように歩き出した。
まだ納得していないようだが、それ以上言い張ることも出来ずに
進藤は急いで後を追った。
その、時。

「快斗! お前も今帰りか?」
「……新一」