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【コナン*パラレル】 夏の暑さは、 【快新】

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「お、ちびっ子も一緒か。お前らほんと仲いいよな」

明るい声を聞いた瞬間、軽く指先が痺れた。
ただ、それだけなのに。

澄んだ、通りのいい声は、快斗にだけ甘く響く。
その毒のような甘みに眩暈がする。

(油断してるときに、名前呼ばれるの…きついなぁ)

一瞬だけ目を閉じて、全てを押し込む。
そうして次の瞬間にはけろりと笑って見せた。

「新一こそ部活終わったのか? 今日は早かったんだな」
「おう。まぁもう直ぐ夏休みだし、合宿前の調整みたいなもんかな」
「あー…サッカー部伝統、地獄の強化合宿か」
「そんなに大変なの…ん、ですか?」

一応年上には敬語を使うという常識は知っていたのか、
新一を気にして無理矢理敬語を使っている。
しかし慣れていないのか苦手なのか、その話し方はぎこちなく、
あまりにも話しにくそうで快斗も新一も思わず噴出してしまった。

「いいぜ、普通で」
「や、でも…」
「快斗にはタメ口なんだろ? 他に誰もいなきゃいいよ」
「……まじですか?」
「まじですよ」

ふざけて、進藤の口真似をして新一は笑う。
そのやり取りが微笑ましくて快斗はずっと笑いをかみ殺していた。
向こう見ずで、考え足らずで、でも小動物のような愛らしさを持つ後輩を
新一も邪険にはできないようだ。

そもそも新一はあまり表には出さないが意外と礼儀に煩い。
中学部活動、特に運動部の特徴である上下関係の厳しさを三年間で
常識として身に付けてきたからだ。

『人として当り前の礼儀さえもわきまえないような人間に、
人との信頼関係を結べるわけが無い』

とは中学二年の頃起きた運動部全てを巻き込んだ問題の最中、
新一がぽつりと漏らした言葉だ。
その言葉で教師や上級生に媚を売っていると取られはしないかと心配をしたが、
三年にも、教師にも言いたい事、言うべきことを言うその姿で反感を押さえ込んだ。

そんな過去を知る快斗には彼が余程この後輩を気に入ったのだとわかった。

「にしても、お前等どういう接点で知り合ったんだ?」
「…んん? 何々新ちゃんったらヤキモチ?」
「アホか…不思議だっただけだ」
「俺、よく保健室に行くんだ。で、快斗先輩が居て」
「あ、わかった。何かおちょくられて反撃したら気に入られたんだろ?」
「…や、だって小動物みてぇで可愛いじゃん、コイツ」
「小動物ってなんだよ!」
「あーなんつうか愛玩動物系っつーか…」
「工藤先輩までっ」
「そーそーきぃきぃ反撃すっから余計面白くて」
「う~…っ!」

そのまま先輩二人にオモチャ扱いされ、寮に付くころには涙目になっていた。
そんないたいけな少年に多少の罪悪感を感じたのか、
分かれる直前に新一はよしよしと頭を撫でてアメを一つ手渡した。
丸みを帯びた三角のそれは、いちごみるく味で快斗も良く好んで食べるものだ。

「いーなぁ…新一、俺には?」
「ねーよ、アレ一個だけ」
「ちぇー」

お前はどうせ持ってんだろ?と笑いながら言われればそれまでだ。
確かに快斗のポケットの中にはアメだけではなく、
チョコやクッキーが大量に入れてある。
全く同じアメも一つ持っていたはずだ。

けれど、違う。

(新一に貰ったアメなら、きっと世界で一番甘い…)

勿体無くて食べられないかも、と考えてそのあまりの女々しい思考に笑ってしまう。
何だ、と振り返る新一に何でもないと笑って、くつくつと笑い続けた。

(何か俺ストーカーみたい?)




でも好きなんだ。

この綺麗な青が泣きたいほど好きなんだ。


気付かれないとわかった上で手を伸ばし、彼を包むように掌を握り締めた。
錯覚に過ぎないけれど、手に入らないものだからこうして
手にする真似事を繰り返して我慢する。

(自覚する前からきっとずっと恋していた)

理由なんて知らない。
ゆっくりと生まれて、育ったこの思いにきっかけなんてわからない。
何でこんなに好きなんだろう。

浮んだ疑問に、答えなどあるわけがなかった。

「いーなぁ…」
「んだよ、お前あれそんなに好きだったか?」
「好きだよ。すっごい好き」

(お前がね)

自然と浮んだ微笑が、甘ったるく情けないものだと自覚している。
それでも溢れる感情を少しだけ逃がしてしまいたいのだ。
後から後から湧き出て、あまり意味が無いけれど。
溢れそうな感情はそのうちどこにいくのだろう。

「そうだっけか? なら今度買ってきてやるよ」
「…っ、ありがと」


泣きそうだ。


心の中でもう一度好きだよ、と囁いて、
握り締めた掌に、爪が食い込む感触が鈍く痛んだ。