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ペルソナ2 周防兄弟SSまとめ

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PHOTOGRAPH




 偶々手に入れただけだ。偶々フィルムが余っているだけだ。偶々特別撮りたいものがないだけだ。
「達哉、何持っているんだ?」
 俯いてポケットに手を忍ばせている俺を怪しいと踏んだのか兄さんが顔を覗き込んできたのに慌ててポケットから手を出す。
 一瞬にして兄の眉間の皺が増える。これはタバコかなんかだと思ってるな、絶対。
「達哉、見せなさい」
「……」
「達哉」
 黙っていると兄の手がポケットまで伸ばされる。それを叩き落とすと兄はきっと俺を睨んだ。
「俺に構うな」
「達哉!」
 それでもしつこく構おうとしてくる兄をまぁまぁと慰めるようにパオフゥさんが兄の肩に手を置く。はっと兄は顔を上げるとうららさんと舞耶姉を見て、しょんぼりと項垂れた。
「まぁ達哉も子供じゃねえんだし、今がどんな時かわかってるだろ、なぁ」
 なぁ、と胡散臭い笑顔(?)を向けられ俺も苦笑いを返す。兄の肩からパオフゥさんは手を離すと胡散臭い笑顔そのまま俺に近寄ってくる。
「……何か用か?」
「ああ、用って言えば用だな…」
 すっとパオフゥさんの手が上がる。その動きを目で追っていると一瞬にしてポケットが軽くなった。
「っ、スったな!」
「うるせえ。ガキが何抱え込んでるかと思えば…けっ。甘ちゃんの弟らしいぜ」
 ポイ、と俺のポケットに入っていたものが投げられる。兄がそれを両手で受け止め、しげしげと見つめた後ほっとしたように笑った。
「カメラじゃないか。どうしたんだこんなもの」
「…悪魔に貰った」
「まぁたそんなもの持ってる悪魔もいるのねぇ」
 ケラケラと声を上げてうららさんが笑い、舞耶姉までうんうんと頷いてそれから頬に手を当てる。
「丁度いいから、記念撮影でもしましょうか」
「ええー悪魔に貰ったカメラでしょお?何か写ってそー」
「あらそっちの方が面白いじゃない」
「面白いってネー」
 それ以前に普段見て会話して戦っているものは何だと思ったが言わないでおいた。
 兄さんはカメラをあちらこちら弄りまわし、じっとレンズを見つめたり時折構えたりしていた。
「兄さん」
「え?」
 パシャリ。
 いい音がしてフラッシュが激しく焚かれる。悪魔から貰ったカメラだから、被写体に何かあるかもと思っていたそのレンズは俺に向けられていた。
「たたた達哉!大丈夫か!?」
「……別に…何とも無い」
 どうやら何事もなかったらしい。きっと今のフィルムには俺の間抜けな顔が写っていることだろう。
「じゃ、記念撮影といきましょ。克哉さんカメラ貸してー」
 ひょいと兄の手からカメラを奪うとにっこりと舞耶姉は有無を言わせぬ笑みを浮かべた。

「ハーイ表情が硬いわよ。リラックスリラックス」
 パオフゥさんは一枚ばかり隠し撮りされふて腐れて逃げた。うららさんと舞耶姉は自分たちを何枚か撮った後、ターゲットに兄さんを選んだ。
「た、達哉…」
「……」
 縋るような視線をぷいと無視すると兄はますます困ったような顔になり、舞耶姉のダメ出しを喰らっている。
「舞耶姉、いい加減先に」
「もー一枚、ね?」
 笑顔でさらりと流すと舞耶姉はシャッターを切る。レンズの前には情けない顔で俺を見る兄の姿があった。

 早速現像に出され、挙句焼き増しされた写真を見ては兄が溜息を吐く。
「僕ってこんな顔してたのか……?」
 情けない、今にも泣き出しそうな顔は自分でもどうして良いのかわからないのか、何度も見ては溜息を吐いていた。
「…でも、兄さんらしい」
「そうか?」
「怒っている顔よりはずっといい」
「達哉がそう言うなら、そうなんだろうなぁ」
 俺を見てふっと笑う兄につられて口元がつい緩む。
 小さくフラッシュが炊かれたのもその時だった。
「シャッターチャンスいただき!」
「え?」
 兄と同時に振り向くとカメラを持った舞耶姉の勝ち誇った顔があった。
「達哉クンの笑顔なんて滅多にないしねぇ」
 嬉しそうに、それは嬉しそうに舞耶姉は笑う。兄さんは顔を真っ赤にして盗撮は駄目だからカメラを渡せなど繰り返していたがそのカメラはすぐにゆきのさんの手に渡った。
「偶々取材中だったのよね、ユッキー」
「…一枚くらいならいいけどね」
 苦笑交じりの溜息を吐いてゆきのさんはじゃ、と俺の肩を軽く小突いた。
「焼き増し宜しくー!」
「ああ、明日にでも取りにおいで」
 早めの方がいいだろう、とゆきのさんは俺を見ずに言って立ち去った。

「俺ってこんな顔してたのか……」
 思わずどこかで聞いた事あるような言葉が口から出る。兄さんは俺の隣から写真を覗き込みながら口元を緩めた。
「そうか?僕はこんな顔してる達哉の方が好きだなぁ」
「……」
「それよりも僕、こんな顔」
「してた」
 やけに嬉しそうに笑う兄と、それを口元に笑みを浮かべて見ている俺。
 一緒に写真に写ったのは一体何年ぶりだろうか。笑って写真を撮ったのは。
 ……そんなこと、今は関係ない。
「それは達哉が持ってるといい」
「え?」
「僕は後で焼き増しを貰うから、それは達哉が持っていてくれ」
「でも」
 手にした写真と兄を交互に見る。兄は笑みを浮かべたまま頷くだけで受け取ろうとはしなかった。
 仕方なしに写真に視線を降ろす。
 でも、これは俺であって俺でない。こちら側の達哉の顔だ。こちら側の達哉の体だ。俺じゃない。俺は、こんな顔をしていたのか?
 ポケットに無造作に突っ込む。もうこの写真は見ない。
 兄は複雑に笑って俺の背を軽く叩いた。


罪達哉&罰克哉