小ネタ6 ※801・腐
覆い被さる、という動作には少なくはない経験から慣れていた。いついかなるときも能動的にこうするわけではないが、半ば無意識だ。深い口付けを重ね、彼の額にかかった髪を撫で上げて、彼、と思った。
男を相手にするのは初めてではない。成り行きで組み敷かれ、望まないセックスに応じたこともある。力に頼って進められたその行為には無駄が多かった。怒らせない程度に抵抗したアーサーを、暴れられない程度に押さえつけてきた。本来なら、相殺された分は要らなかったのだ。
要らなかった。
「どうした」
イームスのてのひらが首筋を撫でる。熱い。ねじを巻かれた人形のように、アーサーは動き出した。彼の上で、自由を阻まれることなく衣服を剥いだ。スムーズにいったのはイームスの協力があってこそだった。ボタンを外しただけのシャツは気が付いたら腕が抜けていて、下に手をかければ、ふわりと腰を浮かせてくれた。ぎこちなさはまるでない。
「慣れてるのか」
「何に?」
訊いたところで何になろう。けれどつい、口から出てきた。
「男とするのは」
ブロンド女、とイームスは笑った。忘れたのか、俺は偽造師だぞ。色んな奴になりすましてきたけど、男を引っかけるにはブロンド女っていうのが、昔からのお決まりなんだ。勝率が知りたいか? 驚くぞ。ギャンブルもこれくらい楽ならと思うね。
引っかけて、肝心なのはその後なのに、イームスは言わなかったし、アーサーも追求しなかった。頭に浮かんだ彼女の姿を掻き消して、夢は別だと切り捨てた。だってこれは夢じゃない。彼は彼のままだ。
「不満そうな顔してるな」
そういうイームスは面白そうだった。していない、と微かに首を振る。
「慣れてたらどうだっていうんだ?」
「してないって」
「俺に経験がなかったらよかった? さっさと自分から脱いで、逆にお前を脱がしてやればよかったか?」
「誰もそんなこと言ってないだろ」
本当に? とでもいうようにイームスは目を瞬いた。
言ってない、とアーサーは繰り返した。少し気になって訊いてみただけだ、何の含みもない。
「女の方は気にならないのに?」
気になるさ。女だろうと男だろうと、お前の過去は気になる。けれど男の方が、自分と同じ性の方が余計に気になるのは仕方がないんじゃないのか。プライドが邪魔をして声にならなかったが、イームスは全て理解したかのように、そうだな、と呟いた。お互い詮索はなしにしよう。
今度はアーサーが笑った。
「探られて痛い腹が?」
一瞬火花が散ったものの、キスをしてたら忘れた。
作品名:小ネタ6 ※801・腐 作家名:マリ