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スプーン一杯分の嘘。

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やがて、グラウンドいっぱいに香辛料の食欲を誘う香りと人の笑い声が溢れる頃。
「ったく……」
意識して顰めた顔付きで、今日、ここばかりは選手たちの逃げ場所である事務所内に入った赤崎は自分へと避けられていたカレーの皿を前に、じゃぶじゃぶと手を洗っていた。
「人のことコキ使いやがってよ」
握手を繰り返していた手は冷水で洗っているというのに、まだ暖かい気がした。人の肌の温かさだ、ぼやきながらもどこか気持ちは明るい。大きく手を振って水を切ると、赤崎はテーブルに着いた。
「さて、と……いただきます」
少しばかり冷めてはいるが、自分たちで作ったカレーだ。外のお祭り騒ぎも相まって、食欲は増している。丁寧に両手を合わせて頭を下げ、スプーンを手にしたところで、ふと廊下を歩く男の影に赤崎は弾かれたように顔を上げた。
「王子?」
「ああ、ザッキー」
第一線で働く選手として十分な筋肉を備えているはずなのに、不思議とすんなりと感じさせる背中に赤崎が呼びかけると、廊下を歩いていた男はふと足を止めて振り返った。
「どうしたんだい、今からカレー?」
「はい、それより王子こそ……」
今から外に行くのか?
立ち止まった吉田の、その足を向けている先はまさに事務所の玄関口で。先ほどまで、あれほどのらくらと雲隠れをして表に姿を見せなかった吉田が、わざわざ外に出るというのか。思わず赤崎は立ち上がると、握ったスプーンそのままで男の元へと向かった。
「タッツミーに見つかっちゃってね。少しはサービスして来いって」
「外出ていいんですか? あの……今、人多いっスから、外出たら大騒ぎになるんじゃ……それに」
村越さんも、心配するんじゃ……。
先ほど緑川に聞かされた話を思い出し、けれどそれを正面切って吉田に言ってもいいものかとらしくない歯切れの悪い言葉を紡ぐ赤崎に うふふ、と相変わらず柔らかな笑いを口元に浮かべた男は、緩く首を傾げて見せた。さらりと柔らかそうな髪が揺れて、甘い匂いが赤崎の鼻先を掠める。
「ザッキーも誰かからボクの話を聞いたんだね?」
「いや、その……はい」
「どんな話、だったんだい?」
聞かせてくれないかな?
かつて自分の身に降り懸かった物騒な出来事の話をしていると言うのに、変わらずおっとりとした笑いを浮かべる吉田に、赤崎の方が狼狽え、やがて溜め息とともに口を開いた。

作品名:スプーン一杯分の嘘。 作家名:ネジ