誓い
2.
あの後あわてて部屋に駆け込み、いつものパジャマ代わりに着てるTシャツとハーフパンツをきて帰ってみれば、既に食事を終えて魔王はテレビ鑑賞中だった。
どこの親父だあんたは。
自分の分のカレーをよそい――てか半分以上なくなってるし――サラダをだして食べ始める。
うん、まあまあ。
まあ市販のものだし失敗しないか、味付けは。
夕飯を食べ終えて、食器を洗おうとしてふと気付く。
鷹臣くんの食器がない。
いつもならテーブルに置いたままになっているのに……
流しの横の食器かごには洗われた皿。
思わず窓の外を見る。
だけど私の心配をよそに、窓から見える夜空は満点の星が輝いている。
――いや、嵐の前の静けさっていうことも。
いまだかつて鷹臣くんがこんなことをしたことは一度もない。
テレビを見ている後姿におそるおそる声を掛ける。
「あの、鷹臣くん……?」
「あ? なんだよ?」
「熱でもある?」
「ねーよ」
そっけなくかえされるが、どうにも落ち着かない。
さっきのことでもおかしい。
いつもならもっとしつこくからかってくるはずなのに……
「なんだ、からかって欲しかったのか?」
突然横から声がして、驚いて振り向くとすぐ近くに鷹臣くんの顔があった。
「いや、べつにそういうわけじゃ……」
「夕飯の代わりに多少手加減してやろーと思ったんだがな」
「か、勝手に食べたんじゃん!」
ニヤニヤと笑いながら距離を詰められ、Tシャツの裾をつかまれる。
「それならさっき近くにきたときに、バスタオルむいてやったのに」
惜しかったな、とあっさりといわれ、どうしようもなく顔に熱が集まる。
――このセクハラ教師は!
「――馬鹿なこといってないで、離してよ!」
こちらも裾を掴み引っ張るがビクともしない。
「――も、離してよ――わっ!」
突然手を離されて、バランスが崩れた身体が鷹臣くんに倒れこむ。
片手で受け止められ、そのまま抱きしめられる。
「――な、にして……」
「――真冬」
耳元で低く静かに名前を呼ばれる。
その声がいつもと何か違って聞こえて、思わず鷹臣くんの顔を覗き込む。
「――鷹臣くん?」
私の肩に頭を乗せた状態では、顔はほとんど見えないけど、何故かその横顔が寂しげに見えた。
「……鷹臣くん? 何かあったの?」
「――あ? なんもねーよ」
勢いよくあげられた顔はいつもの意地の悪そうな笑顔で、さっき感じた寂しげな雰囲気は微塵も感じられない。
でも――
私の不審そうな顔が気に食わなかったのか、ちっと舌打ちするとまたテレビの前に座りこんでしまう。
何か言いたかったがやめておくことにした。
背中がすべてを拒絶してたから。