ささめゆき
灰色がかった白い空からは今にも雪が落ちてきそうだ。
桂は知人の屋敷を訪ねた帰りである。
その屋敷にいたとき、七十を過ぎて隠居している知人は話の途中で桂にしっかり釘を刺した。高杉のように脱藩するな、と。
高杉と高杉の思想に共鳴した松陽の門下生たちが脱藩して四日が過ぎた。
高杉たちの脱藩はある程度予想された事態ではあったが、それでも藩内に衝撃を与えた。
そして、桂も同じように脱藩して戦に赴くつもりなのではないかとまわりの者たちに心配されていた。
だが、と桂は思う。
だが、自分は高杉のようには脱藩できかねる。
もちろん松陽を死にいたらしめた者たちへの怒りはある。ときおり、松陽の遺体を思い出しては、ぐらぐらと腸が煮えくりかえる。
やみくもに戦場へと走りだしたくなる。
その衝動を抑えるのは、自分は桂家の当主であるという責任感だった。
跡継ぎのない桂家に望まれて、桂は隣家の和田家から養子に入った。しかも、養子に入って一年後には養父、養母を相次いで亡くしていた。まだ幼かった桂の肩に当主としての責務が重くのしかかったのだった。それ以来、桂家の当主であることを常に意識して生きてきた。
もしも、自分が桂小太郎ではなく和田小太郎のままであったら。
そんなことを最近よく考える。