ささめゆき
その顔には皮肉な笑みが浮かんでいる。
「だが、俺達にはそんなこたァできねェ。与えられるよりも失うことのほうに慣れてるもんには、できねーことだよな」
銀時の眼が桂のほうを向いた。
桂の心の奥底まで覗き込もうとするかのような鋭く強い眼差しである。
けれども桂は怯まず、見返す。
銀時は俺達と言った。それは、自分だけではなく桂もそうだという意味だ。
当たっていると思う。
桂は養子に出る際に、実父からもう親だとは思わぬようにと言い渡された。もう和田家の者ではなく完全に桂家の者だと思うようにと。それは息子を養子に出す親として仕方なく言ったことだったのかも知れないが、桂は実の親から突き放されたように感じた。
そして、養子に入って一年と経たぬうちに養父母を相次いで亡くして当主となり、近づいてくるのは遺産狙いの大人ばかりで一時期だれも信じられなくなったことがある。
さらに、親子の縁を切ったと告げつつも桂が困っていると目立たぬようひそかに援助してくれていた実父も、桂がまだ藩校に通っていた頃に急死した。
ふり返れば、確かに失うことが多くて、与えられるよりも失うことに慣れているような気がした。
慣れていれば失う痛みが平気かといえばそうではなくて、むしろ痛みを知っているからこそ、その痛みをふたたび味わうことを避けようとし、失うまえから失うことをおそれてしまう。
そして、与えられたものを簡単に手放すことができない。与えられ続けた子供が気に入らない玩具を投げ捨てるようになにかを手放すことなぞ、できなかった。