ささめゆき
「銀時」
正座してから、もう一度名を呼んだ。
けれど、銀時は応えない。
まったく身動きしない銀時は息すらしていないのではないかと思わせる。
返事はないが、桂はふたたび口を開いた。
告げなければならないことがある。
「銀時、俺はもうこの家にこれまでのように頻繁に来ることはできん。いや、ほとんど来ることができぬようになるだろう。明日、登城するよう申し渡された。おそらく、なんらかの要職に就くことになる」
銀時の眼が開いた。
桂は話を続ける。
「俺を脱藩させぬためだろう。そして、まだ藩内に留まっている松陽門下を脱藩させぬための策だ」
高杉たちのように戦場に向かうことなく藩内に残っている門下生も多かった。
藩が松陽の門下生を脱藩させまいとしているのは人材の流出を防ぐためだけではなく、天人とことを荒立てたくない幕府に対して大量の脱藩者を出すことは悪い印象を与えかねないからだ。下手すれば、天人軍や幕府と戦わなければならなくなる。
桂は他の門下生たちに影響力があるから脱藩させぬための重しとなると藩は考えたのだろう。
そして、桂は要職に就けば逃れられなくなる。松陽の家で暮らす銀時と逢うことは禁止される可能性もある。
それを思うと、胸のなかににがいものが走る。
銀時が身体を起こした。
「……で、おまえはそれに素直に従うのか」
そうたずねられて、桂は眉根を寄せる。
すると銀時は苛立たしげな表情で言う。