ささめゆき
痛い、と桂は叫びたくなったが歯を食いしばって我慢する。
やがて、玄関のほうから物音がしなくなった。桂の家の者は諦めて帰ったらしい。
それでもしばらくは、銀時は桂を離さなかった。
ようやく銀時の力が緩んだとき、桂はほうと大きく息を吐き出した。
けれど、解放されたと思ったのもつかの間、桂の着物の襟元に銀時の手のひらが差し入れられる。
桂が眼を見張っていると、その手はしっかりと合わせた衿を押し広げるようにして進み、胸の突起を捜し当てた。指先が尖りを弄ぶ。
「桂」
かすれた声で囁くように名を呼ばれる。
ふっと短くため息をつき、桂は眼を閉じた。
着物は袖に腕を通しているだけの状態で、大きく開かされた足の間には銀時がいる。
銀時の与える刺激に桂が頭を動かすと、長い黒髪が畳と擦れる音がした。
うまくなったと思う。銀時は桂を煽りたてるのがうまくなった。
そして、自分はそうした銀時の動きに感じやすくなった。
桂は思わず声を漏らす。言葉にはならない、熱っぽい甘さを含んだ声を。
銀時は優しい。普段の粗雑な態度からは想像できないほど、桂を抱くときの銀時は優しい。
愛されていると勘違いしてしまいそうになる。
こんなものはただの執着にしかすぎないのに。
松陽を喪った深い嘆きと怒りを、だれかに執着することでまぎらわせているだけであるのに。
銀時にとって松陽は絶対の存在だった。
しかし、だれかに執着することでまぎらわせようとするだれかは、絶対ではないだろう。
自分でなくても良かったのかも知れない。
たまたまそこに自分がいたから、銀時は手を伸ばしただけで。
かなしい、と思った。
けれども、すぐにそれを打ち消した。