ささめゆき
八日目の早朝。
桂の意識が覚醒する。
その桂の隣で銀時が動いた。布団からそっと抜けだしていく。
桂は布団に留まったまま銀時の様子をうかがう。
やがて。
銀時は火を熾した炭を火鉢に入れた。
その後、桂は銀時がいるのとは反対方向にさりげなく寝返りをうった。
時刻は昼に近づいている。
畳にあぐらをかいている銀時の正面に桂は立った。
そして。
「俺は帰る」
反論をゆるさぬきっぱりとした口調で宣言した。
銀時が桂の眼を見る。その顔にはどんな表情も浮かんでいない。
「……そーか」
ポツリと呟くように銀時は返事した。
桂は口を真横に引き結ぶと、身体の向きを変え、銀時に背を向けて歩きだす。
障子のまえまで到着し、手を伸ばそうとしたとき。
「ヅラ」
名を呼ばれた。
だから。
「ヅラじゃない、桂だ」
ふり返らずに、訂正した。
すると。
「俺ァ、これから戦に行く」
銀時は強い決意のにじむ声で告げた。
桂は息を呑んだ。
そして、ふり返る。ふり返らずにはいられなかった。松陽を死に追いやったこの世界を一番憎んでいるはずの銀時が、戦に身を投じるのは当然のなりゆきだった。けれども、それでも。
桂は言葉を失ったまま、ひたと銀時を見据える。
銀時は立ちあがり、歩み寄ってくる。
距離はあっという間に詰まった。
「ヅラ」
すぐ近くで足を止めた銀時が言う。
「おまえはどうする?」
そう厳しい顔つきで問いかけた銀時は桂の腕をつかんだ。おそろしく強い力で。その腕はかすかに震えている。