ささめゆき
痛みを感じながら桂はそれを口には出さず、逡巡する。
少しして。
もしもこの手をふり払えるのならば、今ここに自分はいないと思った。あのとき、初めて押し倒されて、抵抗をやめたときに、答えは出ていたのだ。それは単純な力の差の問題ではなく。
放っておけない。
自分は銀時を放っておけない。
冷たい部屋で銀時が寝ているのを見て、放っておけなかった。銀時の身体まで冷たくなるのを、放っておけなかった。
冷たくなって、まるで息すらしていないように見えるのが、恐かった。
生きる意欲を失ったように見える銀時に、生き続けてほしかった。
そのためならば。
もし温もりが必要だというのならば。
だから。
身体を与えた。
自分は火鉢がわりでいいと思った。
暖かくなればいらなくなる火鉢で、いいと思った。
だから、今朝、火鉢に炭を入れる銀時の姿を見て、もう自分はいらないだろうと判断した。だから、家に帰ることを決めた。
けれども、銀時はまだ桂が必要だと言う。一緒に行こうと言う。言葉にはせずに、その手で桂を引き留めようとする。
卑怯だ。
銀時は桂を離せずにいるのがただの執着であることに気づいていない。
もう手を離してほしいと桂は思う。ただの執着であるのならば、だれかの温もりがほしいだけならば。