ささめゆき
銀時が刀を抱いて座っていると、障子を開けて桂が部屋に入ってきた。
刀を脇に置いて桂の様子を観察し、銀時は声をかける。
「ヅラ、てめー、かなり呑んだだろ?」
「ヅラじゃない、桂だ。……顔に出ているか?」
「ああ、すげー出てる。真っ赤だ」
桂は眉根を寄せ、右手で口元を押さえた。
言ったことは嘘だ。本当は普段と顔色がまるで違わない。足取りもしっかりしている。桂はかなり酒に強く、どれほど呑んでも酔わないと仲間内では思われていた。
けれど、銀時には桂が酔っているのがわかる。いくら桂といえども大量に酒を呑めば気分が高揚してくるらしく、それが態度の端々にほんの少し現れる。もっとも、小さな変化なので、たいていの者は気づかないのだが。
桂が銀時の隣に腰を降ろす。いつものように正座するのではなく、めずらしくあぐらをかく。
「……まあ、祝杯だからな」
「祝杯にはまだ早ェだろ」
銀時と桂は今、例の石頭の大将が率いる軍にいた。鞍替えしたわけではなく、共同戦線を張ることを提案しにきたのである。そして、その提案は受け入れられた。
「呑み比べになったんだ」
軍議のあと、桂は大将に呼び止められて、そこに残った。
「酔いつぶせなかったのは初めてだ。それに、石頭だとか言われているが、一緒に呑んでみたら意外とおもしろい男だったぞ」
桂はニヤリと笑う。
その瞬間、小骨のようなものが胸を刺した気がした。
おもしろくない。
おもしろくなかった。
しかし、銀時はその不愉快な気分を顔に出さないよう努める。