ささめゆき
「そういえば、呑んでいるときに良い情報を聞いたんだった。俺が麹町の道場にいたとき、京橋桶町の北辰一刀流の道場に坂本辰馬という男がいたんだが、そいつが軍を率いて天人軍を急襲し、圧倒的な勝利をおさめたらしい」
愉快そうに桂は言った。
「……へえ」
銀時は低い声で相づちを打った。
胸のなかがやけにむかむかしている。
けれども、桂はそんな銀時の胸のうちにはまったく気づかない。
「その坂本はおまえと同じで髪がひどく歪んでいる」
からかうように言った。
だから、銀時は言い返す。
「るせェ。いつか癖毛の時代が来るんだからな、覚えとけ。それになァ、癖毛のヤツに悪いヤツはいねーんだよ」
「だが、坂本は髪だけではなく女癖も悪く、あちらこちらの女子に手を出してはヘラヘラしているぞ?」
「そいつ本当に癖毛か? 癖毛のヅラ被ってんじゃねェのか?」
「ヅラじゃない、桂だ」
「いや、そーじゃねーだろ。これだから酔っぱらいはよォ」
話にならねェ、と吐き捨てる。
すると、桂は口元をゆるませた。
「アイツは女子に関しては誠意というものがまったくない男だが、それさえ除けば器の大きい見所のある人物だ。いつか大きなことを成し遂げるだろう。バカみたいに大笑いしながら、な」
そう言って、やわらかく笑う。
銀時の胸のなかの空気はよりいっそう重く苦いものになった。