ささめゆき
銀時は前屈みになって手早く鼻緒を替える。
鼻緒を替え終わると、立ちあがった。
前方に桂の後ろ姿が見える。それはどんどん遠ざかる。
その光景を銀時は以前どこかで見たような気がした。
そして、思い出す。
あれは桂が剣術の腕を磨くために郷里を旅立ったときのことだ。
あのとき、自分はいつものように軽口を叩いて、桂が郷里を離れるのはなんでもないことのような顔をして。
やがて銀時に背を向けて去っていった桂を見送るうちに、いてもたってもいられないような焦燥感が胸に湧きあがってきて、見送るのをやめて踵を返して、いつの間にか走っていた。
ひたすら走っていないと強い想いが外に溢れ出そうだった。
行かないで。
行かないでくれ。
そう思っていることを否定し、感情を心の奥底に押し込めた。
あの頃から自分は桂に対して、他の者に対するものとは違う、松陽に対するものとも違う感情を抱いていたのだ。それを認めることはできずに今まできたけれども。
そして、月日は流れ、松陽が投獄され、桂が帰ってきて。
あの日、もうここにはほとんど来ることができなくなるだろうと告げられたとき、ずいぶん昔に押し込めてその存在を忘れてしまっていた感情が突然暴れて外へ出てきた。
もしも桂があくまでも抵抗を続けていたなら、自分は桂を殴ったかも知れなかった。
行かせないと思っていた。
絶対に。
一生ゆるされなくてもいいから、どこにも行かないでほしかった。