ささめゆき
河原で生活していたころの銀時とは、桂は逢ったことがなかった。だが、噂を少し聞いたことがあった。悪い噂を。他人の畑で作物を盗んだ、とか、銀色の髪をしていて力がおそろしく強い、とか、あれは間違いなく天人の血が流れている、とか。噂する者は一様に眉をひそめていた。
そんな銀時を松陽は家に置き、さらに自分の塾で学ばせた。
噂の銀時と机を並べることとなり塾生たちは驚いた。しかし、塾生は皆、松陽を慕っているので、銀時を自分たちと同じ塾生とすることに異議を唱えなかった。
だが、しばらくの間、銀時は塾生であっても仲間ではなかった。
誰も銀時に話しかけない。
銀時もその気はないらしくいつも一人で他人のことなど我関せずといった顔をしていた。
それでいいのだろうと桂も思っていた。
けれど、ある日、塾の庭で剣術の稽古をしている時、庭の隅でいつものように刀を抱いて座っている銀時のことが無性に気になった。
桂は竹刀を持つ手をおろすと、稽古の相手に断ってからその場を離れた。足はあたりまえのように銀時のほうに向かっていた。
やがて銀時の近くで足を止めた。
すると、銀時は顔をあげ桂を見た。
そのときになって初めて、自分がどんな目的で銀時のまえまで来たのかわからないことに気づいた。
銀時はなにも言わずに桂をじっと見ていた。その眼は、なんの用だ、と桂に問いかけていた。
どうすればいい。桂は焦った。
そして。
『俺と勝負しろ』
とりあえず開いた口からは、そんな台詞が飛び出していた。
桂は自分の言ったことを自分の耳で聞いて、驚き、よりいっそう焦った。
これでは喧嘩を売っているのも同じ。