貴方はだれの、王子様?
「あんたもだよ、折原臨夜さん?」
「はあ?あたしはシズちゃんと違って望みあるもん。」
臨夜も俄かに帝人より背が高い。
それでも、成長期の帝人が追い越す可能性は十分にある。
いや、後ほんの少しで追い越すのだ。
「それに、あたしは『カップルですか?』って聞かれたことあるし。真っ赤になった顔だって、知ってる。」
「へえ。以外・・・。」
青葉はちょっと目を見開く。
でも、すぐに嫌な笑みを浮かべる。
「でも、無理なものは無理だね。」
「だから何で?」
不適に返す臨夜に青葉は笑みを深める。
「あんたみたいな阿婆擦れ、好きになるはず無いじゃない。」
「・・・・・は?」
臨夜は眉をしかめる。
「だってさぁ、そうでしょ?わたし知ってますよ、あんたが男をとっかえひっかえしてること。その挙句、ぽいと捨てちゃうこと。」
「だから何な訳・・・?仕事だよ。それに、あたしは付き合ったつもりなんか無い。」
ぷっと青葉は吹き出す。
面白いと言わんばかりに。
「でもさぁ、周りはそう思わないよ。・・・先輩だってそう。教えてあげようか?」
「何をさ・・・。」
ニタリ、と青葉が笑う。
「先輩は、あんたのこと汚い女って思ってるよ。」
「、はあ?なにそれ。」
「仕事だろうがなんだろうかそういう風に見えなければ無意味だよ。周りはね、あんたが身体使って情報もらってるって思ってんの。」
「何?帝人くんもそうだと思ってるって言いたいわけ?」
くす、と青葉が嘲笑する。
「思ってないよ。」
「じゃあ、関係ないじゃん。」
「でも、汚い女だとは思ってるの。」
臨夜は苛立つ様に青葉を睨む。
「先輩言ってたよ。『そういう事実は臨夜さん本人に聞かない限りはわからないから、そんな真似してるとは僕は思わない。容姿を武器にするなとは言わないし、思わない。』って。でもね。」
「・・・?」
「『でも、汚い。』って。」
「!!」
臨夜の肩がびくりと揺れる。
青葉越しに聞く帝人の台詞に臨夜は傷つき、悲しみを一瞬だが露にした。
「先輩はあんたのこと嫌っては無いかもだけど、汚らわしいって思ってるの。わかる?」
「・・・帝人くんが・・・。」
「あ、それともぉ・・・。」
青葉が見下すように、蔑むように臨夜を見る。
「まだ処女ですって言って泣きすがってみる?」
「っつ!!?」
臨夜が真っ赤になる。
「容姿は武器にしてるけど、身体はまだ清いまんまですって言えば?信じてくれると思うよ、先輩は。」
「でも。」と青葉は続ける。
「汚らわしいって更に思うよね、きっと。」
「・・・・・・・・・。」
「だいたい、そんな貧相な体つきじゃねぇ?」
「う、うるさい!!あんただって、人の事いえないじゃないかっ!!」
静香は涙も拭わず臨夜を見た。
臨夜が涙声だったからだ。
体型に関しては臨夜にもコンプレックスがある。
だから、体型のことで臨夜が静香を詰った事は無い。
静香も臨夜の体型を詰ったことは無い。
同じ女として、体型に悩みを持つ女性として、それは最低限のマナーだと無意識に思っていたからだ。
しかし、青葉には関係が無い。
未発達の彼女は未発達ゆえに、未完成であることを武器にする。
完成され、これ以上が無い二人をもっともっと傷つけるために。
「わたしは違いますよ。帝人先輩が望むようにまだまだなれるし、なって見せる。」
青葉は胸を張る。
未完成の自分の身体を自慢するように。
「わたしはあんた達とは違うの。綺麗な身体で、清いままで、先輩よりか弱く華奢で、堂々と先輩の隣に居れる。この先は先輩の望むとおりに自分を創る。」
青葉はくるりと一回転する。
細い手足、狭い肩幅、華奢な腰、小さな頭。
男を引き込むための色香は無く、ただ可憐に無垢に、清いままなその姿。
「あんたみたいな暴力的で、先輩よりも腕力も脚力も強い、人間離れした怪力で、図体のでかい女とも。」
静香を嘲笑い。
「あんたみたいに貧相なくせに、男を引き込むことばっかりいっちょ前で、薄汚れた阿婆擦れ女とも。」
臨夜を蔑み。
「わたしは違う。」
清く華奢な青葉は己の優位を見せ付ける。
「それに。先輩のために傷つけば・・・先輩は責任を取って、わたしを貰ってくれるの。」
「・・・何・・・?」
臨夜が震える唇を動かす。
「わたしを貰ってくれる。先輩、顔に似合わず紳士で漢前だから、責任とって・・・結婚してくれるの。」
「!?」
静香が震える。
まるで、怯えたように。
「わたしを恋人にして、ゆくゆくはお嫁さんにしてくれる。優しく愛してもらって、お姫様みたいに大切にされて、宝物みたいに扱ってもらうの!!」
嬉しい、と全身で青葉は語る。
幸せそうに頬を薔薇色に染めて、可愛らしく自分の頬に手を当てて。
瞳を輝かせて、キラキラと輝いて・・・!!
「わたしは宝物にしてもらえるの!!あんた達と違って!!わたしはお姫様にしてもらえるの!!あんた達と違って!!」
声を高らかに、青葉は告げる。
「先輩は・・・竜ヶ峰帝人は、わたしの王子様なの!!あんた達のじゃない!!」
青葉は愛しさを滲ませて、ここにはいない帝人に言う。
「大好き、愛してます帝人先輩!!だから、先輩も愛してください!!」
呆然と立ち尽くす二人の女を青葉は嘲笑った。
くすくすくす、とそれは可愛らしい微笑で。
「もう、証はわたしの手にあるもの。指輪みたいに外れたりなんかしない、帝人先輩からの、印が。」
青葉が包帯をするりと取る。
はじめから手に巻かれた包帯が気にかかっていた。
それを、青葉は取る。
見せ付けるように。
そこには、なにかで貫通された跡がくっきりと残っていた。
手のひらの、ど真ん中に。
青葉は愛しそうに傷跡に口付けを贈った。
奪えないでしょ?と言わんばかりに。
作品名:貴方はだれの、王子様? 作家名:黒鳥 キョウ