花鳥風月 -月-
「なんだ? 何か、俺の顔についているのか?」
浮竹の横顔に、京楽の視線は長く留まっていたようだ。彼が振り向いた。病弱な体質についての同情は、浮竹の心情に沿うものではない。たとえそれが気遣いによるものだとしても、床を上げたかぎりは病人ではなく、護廷十三番隊隊長であると言うのが彼の持論であり、自尊心だ。それを知る京楽は、だから、
「や、月に劣らず良い男ぶりだと思ってね」
と逸らした。そして月の光を吸って、ともすれば白銀に光る彼の長い髪を一房手に取ると、引き寄せてその唇に接吻した。
「な…、何をするんだ?!」
浮竹が後ろに傾ぐ。くつくつと京楽が笑うと、彼の表情が緩んだ。からかわれたとでも思ったに違いない。
「馬鹿なこと、するなよ」
「ごめん、ごめん」
浮竹の手から落ちた杯を拾い上げ渡す。それに二杯目を注ぐ京楽の手が止まった。
「でも、からかい半分、本気半分って言ったら?」
京楽が持参した徳利は、すっかり空になっていた。浮竹は飲んでいないに等しいから、ほとんど一人で飲んだことになる。弱い方ではないが、多少は酔いが回っているのかも知れない。それとも、こうして二人だけで酒を酌み交わすことに、『酔っている』のか。
確かに、浮竹の自尊心を傷つけまいと思っての所作だったが、彼の唇の感触と得体の知れない酔いが、封印したものを呼び覚ました。
「何を…言ってる?」
「あの夜を思い出していると言ったら、君はまたボクの手から離れてしまうのかな、十四郎?」
「京楽」
寛厚で人望厚い浮竹と、思慮深く、『真贋』を見極める目に長けた京楽。初めて目見えた時から気心が知れて、統学院在学中は常に一対で見られる存在であった。互いに高め合いながら精進し、いつしか友情以上の感情が芽生えていることを知りつつも、確かめることなく過ごした。その日々が明日で終わるとなったあの夜――卒業前夜、切なく、激しい吐息だけが、想いを知る手立てだとでも言うように、貪るがごとく求め合った。