トリカゴ 2
「・・・その話、本当だったのかい?あくまで上の計画だろうと思っていたよ」
渡された譜面に驚きながら、そして波江が言わんとすることを気取り、周りの視線から避けるようにそっと声を潜ませる。
「・・・・だけど、聞いているかもしれないけど、あいつはその、あまりサイケを好ましく思っていない。まあ、ベクトルが違う天才への嫉妬と懐疑だろうけど、・・・あまり期待しないでくれないかな」
「わかってるわ。だけど歌詞までは彼は考えきれないの。・・・・ご存知だろうけど。サイケはこの曲を津軽にって頑なだから・・・うまく丸め込んで欲しい」
「うーん・・・・やるだけやってみるさ。そう、でも、サイケは元気で・・・・相変わらず、なんだね」
譜面を目で追っていた新羅は、寂しそうな笑みを波江に向けてしまう。幼い頃、よく遊んだ仲だからかやはり気にはなるようで、しかし、彼の現状を察したのかその笑みが少し、硬い。波江も辛そうに顔を背け、背後にいる面々がこちらを奇異の目で見ていることが少し煩わしく苛々させられていく。
「サイケも津軽も・・・可哀想だとしか私には思えないわ」
「僕もだよ。何でだろうね、名声も地位も格段にあるっていうのに、哀れんでしまうのは。・・・それじゃ、これは預かるから」
そして新羅は津軽が待つ部屋へと足早に戻っていった。その背中をぼうっと見送る間、もしサイケの歌を津軽が拒絶してしまったら、サイケの傷つきようはいかなものかと考えていた。ますます傷つき、今度こそ歌うことを辞めてしまわないだろうか、そうなったら誰が彼を守るというのだろうかと。
社長への報告、というどうでもいいくだらない用事を思い出し、重い溜息のままにその足を重役たちのいるフロアへと向けていく。腰まである美しい黒髪をふわりと踊らせ、ほかの社員からの挨拶を適当に受け流す。
あちらこちらで貼られているサイケと津軽のポスターを横目で見、いつかこの世界から彼らの歌が消える日が来るのかとそう遠くない未来を漠然と考えてしまっていた。