好物=甘いもの2
「…けっこう暗いな、こっちは」
「は、はいっ! そうですねっ」
大通りは明るい池袋だが、大通りから一本奥まった裏通りは暗い。
ぐるぐると思考の迷路を彷徨っていた帝人だったが、静雄から声を掛けてもらい正直ほっとした。よかった、不機嫌じゃない。
「えっと、僕の実家はもっと暗いんですけど、なんでかこっちは明るいけどすごく暗い感じがしますね。眩しさに目がくらむんでしょうか」
「あー…そうかもな」
「暗いけど、明るいですよね都会って。星が全然見えないですもん」
「…星? 星なんか見えねえぞ? 普通に」
「嘘ですよ、僕見ましたよ、夕方に一番星」
「あ?」
星なんか見たことも無いとでもいうように言う静雄に、帝人が笑ってツッコミを入れる。そうだ、僕はどっちかというとツッコミタイプだったんだ。相手がしゃべってくれなかったから調子が出なかったのだ。そうだ分かったぞ、と。それで調子を取り戻した帝人はそれを会話の取っ掛かりにする。
星なんか見えただろうか?
「たぶん、金星じゃないでしょうか、すぐ消えちゃいましたから」
「金星…?」
別名、宵の明星。わずかな時間に群を抜いて光り輝く星。
「へえ、お前星とか詳しいのか?」
見るからに、真面目で優等生そうな帝人のこと、星座などにも詳しいのだろうと静雄は思った。自分も学生時代に授業は受けたはずだがもう覚えてはいない。ましてや、この都会の空で星を探してみようなど考えたこともなかった。
「いえ、僕も詳しいわけではなくて、たまたま見つけただけなんで、たぶんそうじゃないかなぁ…っていうくらいで、確証はないんですけど」
「星か…、セルティが、星座とかなんだとか詳しそうだよな…」
「ああ、そうかもしれませんね!」
セルティ、二人の共通の友人。
彼女を通じて、こうして二人は今一緒に歩いている。ダラーズという共通点もあるにはあったが、ダラーズには組織めいたつながりはないので、やはりここはセルティの友人という繋がりになるのだろう。
鍋の席で、静雄は帝人に『友人の友人だから俺とお前も友人でいいだろ』と言ったことを思いだした。そのときはややこしいのが面倒で口からパッと出た言葉だったが、実際に今を考えてみる。
メールして、待ち合わせして、一緒に飯を食って…
今は、こうやって一緒に歩いている。
でも、次の『約束』は無い。