好物=甘いもの2
「…なあ、」
「はい」
「あの、よ…」
「?」
なかなか話を切り出さない静雄に帝人は足を止めて振り返る。自分より頭一つ以上高い静雄が、軽く頬を赤らめて言いにくそうにしている。
「静雄さん?」
ああ、その声。
それが聞きたかったんだよな、俺は。
「俺は、お前よりけっこう年上だが…、その…」
「はい」
こくん、と帝人が小さくうなずいて先を促す。
「お、俺と、友達になってくれねえかな…」
言葉にした途端に物凄く恥ずかしいことを言ったと口に手を押さえ静雄は赤面した。
おおお、俺は一体何を言っているんだ。なんだこの青臭い会話! 小学生か! 帝人を見れば、あちらも似たようなもので目を大きく見開いて顔を真っ赤にしている。
「え、っと、あの…」
「悪ぃ! 今のなし! っていや、違う、なしじゃなくてっ」
しどろもどろに弁解しようとする静雄に帝人は慌てて声を掛けた。
「あのっ!」
「…っ、なんだっ」
「あの、ぼ、僕はお鍋の席で、静雄さんが友人って言ってくれて本当に嬉しかったんです! だっ、だからっ」
「……」
これではまるで、友達ではなかったみたいではないか。
「そ、そうだったよな、悪ぃ」
「そうですよ。…その、…そうですよ、ね?」
帝人の語尾が小さくなる。友達だと断言したい気持ちと、自分でも信じきれていないこの気持ちとの間で揺れるのだ。
「メールする!」
「え? あ、はい!」
沈黙を切り裂いて静雄が声を張りあげた。
「今度は、俺が飯をおごる!」
「はい」
「それと、えーと…」
友達づきあいというものを基本的にしたことがあまりない静雄は、実際友達とは何をもって友達とするのか、というのが良く分からない。分からないが、分からないなりに自分の今の気持ちを伝えたかった。帝人に気を使わせてしまったことが悪いと思った。不安だったのは自分だけではなくて、帝人も同じだったのだ。むしろ、年下である帝人の方がより自信が無かったのかもしれない。
「ボーリングとか…」
「ボーリング?」
「はい、ボーリングとか…しませんか?」
「あー…。そういや、やったことねぇな」
「じゃあ、今度一緒にやりましょう?」
「あ、ああ」
鍋の時からずっと随分長い間熱にうかれていたような、実際何がなんだか分からないままベクトルだけが暴走していた二人に、ようやく自然な笑みが浮かぶ。
いきなり転がり込んできた非日常が、ようやく日常となった。