好物=甘いもの2
池袋の有名人、平和島静雄
別名、喧嘩人形
まさかまさか、こんなに近くで見ることができる日がくるなんて!
信じられない!
いくら毎日池袋にいるからって毎日会えるわけじゃない。
平和島静雄の存在に気がつくのは人や自販機が空を飛んでいるときだ。
そんな状態の時の静雄にのこのこ近づいていく人間はこの池袋にはいない。
その静雄がダラーズのメンバーだと知った時に、もしかしたら知り合いになれるかも!?と淡い期待をしたこともあったが、現実はそんな機会を用意してくれるはずもなかった。
「おとなり、失礼しますね」
「おう」
遅れてきた静雄の隣に帝人はおそるおそる腰を下ろす。
隣に座る帝人を特に気にする風もなく、静雄はにぎやかな門田達のチームを眺めながらオレンジジュースをちびちびと傾けていた。
「すみません、今ちょうど具がなくなってしまってて…もうじきできると思うんですけど」
「ああ、気にすんな。」
帝人はちらり、と静雄を盗み見る。
なんていうか、なんだか…
いつもの静雄さんとはまた違うような、というか…。
というか別に、いつものってそんなに静雄さんのことを知っている訳ではないんだけれど、…この人ってこんな穏やかな表情もするんだ、というか…。
池袋の自動喧嘩人形とか、嘘みたいだ。
そういえばセルティさんが『静雄は普段は大人しくて静かなやつなんだ』とか言っていたような気がする。
「こっちは、ただ飯ご馳走になる身なんだからよ、あんま気をつかわなくていいぞ」
「え、ええと、いえ、あ、はい。あ、僕も同じなんですけど」
「ん?あ、まあそれもそうか」
そう言って静雄さんは、僕に笑いかけてくれた。
か、会話!!
会話ができてる!!
こんな、何にも取り柄のない僕が、池袋最強の静雄さんとっ!!!
少々テンパってしまったがセルティさんの絶妙なフォローで問題なく会話が続けられている。
夢みたいだ。
僕がうっかり「静雄さん」と呼びかけてしまった時も、静雄さんは怒らなかった。
むしろ友人でいい、だなんて言ってくれて…。
静雄さんて、静雄さんて…
実は凄くやさしい人だったんだ。
僕を取り巻く、池袋の日常がぐるんと一回転したような気がした。
興奮と期待と感動とその他モロモロ…で僕はきっと有頂天だったのだろう。
後で思い返してみても、その時の僕の大胆さには肝が冷える。
よくあんなことができたものだ。
もう一度やってみろといわれても、たぶん一生できない。
けっこうギリギリのラインだったと思うんだ。