好物=甘いもの2
「追加のお鍋煮えたので、僕よそいますね! 静雄さん、好きなものとか、嫌いなものとかあったら教えてくださいね!」
そう静雄に声を掛けて帝人はあたふたと小鉢とさじを手にとった。
「あー…ネギ…」
「はい!」
静雄の声と共に帝人はネギを山盛りすくって小鉢によそった。
「…は、好きじゃねぇ」
「ええっ!?」
最後まで聞かなかった帝人が悪かったのか、小鉢にはてんこ盛りにされたネギがある。
「あ!すみません、じゃあこれ僕のにします!!」
「悪ぃな」
「いえいえ、僕が先走ったからいけなかったんです」
そう言って照れて笑う帝人に、静雄もなんだかいたたまれなくなる。
ネギを注意深く避けて、豆腐や肉団子をすくっている帝人を見て、静雄は思わず言い訳を口にした。
「ネギの味が、どうも苦手でよぉ…」
「あ!そうだったんですかー」
「「ネギって…」」
「辛ぇよなー」
「甘いですもんね」
「は?」
「え?」
「いや、ネギ…」
「あれ?甘いですよね?」
「いや、辛ぇーだろ?」
「あ、生はそうですよね」
「???」
二人の表情にはお互いハテナマークが飛んでいる。
会話もなんとか続いたが、お互い腑に落ちていないようだ。
「…つーか、野菜は全般的にあんまり好きじゃねーっつーか…」
「あ、そうだったんですか」
じゃあ、実はお鍋とかってあんまり好きじゃなかったんじゃ??
と帝人は不安になった。
だって、どうみたって、お鍋の主役は白菜じゃないか。
「野菜ってやつは、苦いとか辛いとか酸っぱいとか臭ぇとか…」
「えぇ!?」
静雄のあげる“たとえ”に帝人は思わず声をあげた。
苦いとか辛いとかはまだ分かるにしても、酸っぱいとか、臭いとかっていったい!?
「し、静雄さんニンジンとかピーマンとかは苦いですよね?」
「ああ!そうだろう?やっぱり!」
ようやく話が通じた!とばかりに静雄の顔が輝いた。
「酸っぱいとか、臭いって?」
「んー、まあトマトとかキュウリとか??」
!!!!!!!!!
この時、声をあげなかった自分を褒めてあげたい。
静雄さんの味覚っていったいどうなってるんだっ!と全力で突っ込んでしまいたい気持ちを帝人はギリギリと歯をくいしばって抑える。
「ちなみに静雄さん、ダイコンは?」
「ああ?辛いに決まってんだろ?」
「…念のためにお聞きしますが…、たくあんは?」
「はぁ?たくあん?ああ、ありゃー、しょっぱくて、甘い?…ときもあるかもな」
ぷるぷると震える帝人を前に静雄はだんだんとイライラしてきた。
「ああ?なんだ?お前、俺が野菜が嫌いなのがオカシイのか?平和島静雄ともあろうものが、プリンやらの甘いものが好物だとかってのがみっともないとか、そういうのか?お前も!?」
気がつけば静雄の額には血管が浮いており、いまにも爆発寸前だ。
一方帝人といえばなにやら真剣な表情で考え込んでいる。
不穏な空気を感じたセルティが慌てて間に入ろうとPADを叩き出した。