好物=甘いもの2
「よう、って、なんだその荷物っ」
帝人の姿を見て、思わず静雄はつっこんだ。
登山にでも行くかのような大きなリュックを背負い、両手に手荷物。帝人を見ればすでに汗だくで頬を赤くして湯気でも立ちそうな様子。だいぶ消耗しているように見えた。
「静雄さん、お仕事お疲れ様です。すみません、大事な休憩中に」
「いや気にすんな、ていうか大丈夫か?荷物貸せ、半分持ってやる」
「えっそんな!悪いですっ」
「ん?」
あいさつもそこそこに荷物をひょいと取り上げられた。
半分以上の荷物を取り上げられて、さすがに申し訳ないと慌てる帝人を尻目に、静雄は平然とした顔でふりかえる。これぐらいの重量屁でもない、といった感じだ。
・・・まあ、平和島静雄にかかれば、自分が持てるレベルの荷物なんぞ手荷物レベルなのかもしれないが。
「あ、ありがとうございます」
「いや、しかしすごい量だな…」
「はい…恥ずかしながら東京にできた友人に食べさせたいと言ったら、あれもこれもと詰め込まれまして…」
「へえ…」
ということは、この荷物の半分は自分のためなのだ。
このひょろひょろとした細腕で、自分の為にはるばる持って来てくれたのかと思うとうれしくなった。頬を赤くしてふうふう持ってきたのであろう帝人の姿を思うと静雄の胸はあったかい気分になる。中身が苦手な野菜であることは、このさい置いておいて素直に感謝の気持ちが沸いた。
「ありがとな、暑いし、重かっただろ」
「え、いえそんな。あ、でも暑さだけは本当、参りました」
「そうだな、時間けっこうあるからこのままウチに持っていくぞ。クーラーつけてお前少し休め」
「え?いいんですか?」
もちろん、帝人のアパートにはクーラーなんて高級品はない。涼めて休めるなんて願ったり叶ったりだ。
荷物も軽くなるし、好奇心の塊である帝人にとって平和島静雄の家にお邪魔できるなんて一石二鳥どころか鳥が大猟だ。
「ああ、遠慮すんな。おみやげの礼だとでも思ってくれ」
「はい。静雄さんのおうちにお邪魔できるなんて正直うれしいです」
池袋に来て、他人のお宅にお邪魔することなんて、実は滅多にないのだ。
そう言ってホクホクの笑顔を向けた帝人に静雄はドギマギする。
今までこんな笑顔を向けられたこともなければ、自分に懐いた後輩もいない。
少ないながらも友人はいないこともないが、こんな風に笑う人物はいなかった。
「そ、そんなもんか?」
「はい!」
そういえば、自分のうちに幽以外、身内以外の人間を招いたことは無かったのではないだろうか今までに無い不思議な感覚でふわふわした気分のまま、静雄は自宅に足を向ける。
身軽になった帝人が軽い足取りで静雄の後についてくる。
その様子がはるか昔、小学生時代の同級生が連れていた良く懐いた犬を連想させた。
静雄は犬が好きだが飼ったことは無かった。
当時その同級生をうらやましく思ったものだ。
自分の後を少し小走りについてくる帝人を見て、犬を飼ったらこんな感じかなと思った。