好物=甘いもの2
「静雄さんのお宅ってこっちの方なんですね」
キョロキョロと周りを見回して、帝人は建物と道順を覚えようと努力していた。多少は池袋の地理に慣れたとはいえ、行ったことのない場所は多いので、一つ間違えばすごく簡単に迷子になる。
「ああ、もう少しだ。そろそろ見えてくるぞ…と」
とある方向を指差した静雄の動きが止まる。響くバイブ音
「やべ、ケータイ…」
バーテン服の尻ポケットからケータイをだすと、静雄は帝人に手刀を切って通話ボタンを押した。
「トムさん?何かあったんすか?」
先ほど静雄が指を差した方向に着々と歩みつつ静雄は会話を続ける。
お仕事の話かな?
「・・・んだとあの野郎おおおおおおっ!!」
ケータイ!ケータイがみしっていった!!危なっ!
「悪ぃ!竜ヶ峰!次回収しに行く予定のやつが、トムさんぶっ飛ばして逃げやがったっ!」
「えっ!?ええ!?」
トムさん、というといつも静雄さんと一緒にいるあのドレッドヘアの人か。
「悪ぃな!あのマンションの3階の端の部屋が俺のウチだからよ、先入って休んでろ」
そう言ってぽいっと家の鍵を渡された。
「荷物も悪い!後で運んでやるからそれまで頑張れよ、大丈夫だな?」
「え、あ、はい!大丈夫です!!」
「キリがついたら、またメールする!」
「あ、はい!え、ええといってらっしゃい!」
「…っ!?」
今にも飛び出していきそうだった、
静雄さんが何かに驚いたように振り返った。
「あ?、え、えと気をつけてくださいね!」
「あ、ああ。サンキュー。行ってくるわ」
言うが早いか、飛ぶように駆けていった。
「…早ぁ~…」
っていうか、静雄さんってやっぱりすごいなーとか思ってしまう。
目の前には大きな荷物。気合を入れなおして背負う。
「うっ」
今まで持てていたものなのだから、持てないはずは無い。だが一度楽を覚えた体が嫌だ嫌だと言っている気がする。あと少しだから頑張ろう。
帝人は渡された鍵を握り締めて、
静雄が指差したマンションに向かってよろよろと歩き出した。