LLGA & BBIM
煌煌と光の輝るコンビニのデザートの棚には死ぬほどいわゆるスイーツが溢れている。
僕はそれを片っ端からカゴへ放り込む。
吐くまで食ってやる、というか、食って吐いてやる、という気持ち。
彼には分からないだろうな、僕にも分からないけど。
とにかく吐くまで食べる。もしくは吐くために食べる。
自傷的。バカみたい。
(バカでいい、とりあえず今は)
カゴ一杯に色とりどりのパッケージが溢れた。
レジの店員が目を丸くしている。僕はにっこり笑って言う。
「パーティーなんです」
クラスで、というと、店員は納得した顔で笑った。
会計を済ませていると知った足音がした。革靴、かかとが少しすり減っている。
何で今日ばっかりこんなに会うんだろう。そちらを見なくても僕は知っている。平和島静雄。
「あ」
足音が僕の隣で止まる。僕も止まる。こんなに近くに寄れるのは嬉しいが、さすがにさっきの今で顔をまっすぐ見られる自信はない。僕は単純に平和島静雄を恐れている振りをして俯き、両手に余る白い袋を手にとる。
レジ台から引きずり下ろした途端にがくんと肩が下がる。重さにふらつきながら彼を迂回する。
つもりが遮られた。
「おい」
僕はその声が僕にかけられたのだとは思わなかった。迂回しようと左へ足を出すと彼がまた遮った。
ようやく僕は彼が僕に声をかけたのだと気付いた。
ありえない。
「あのよ、」
ありえない。
ありえないので僕は聞こえない振りをしてその横をすり抜けた。
「あ」
煙草の匂い。
俯き気味の視界に彼の掌が入る。大きな手。長い指。ちくしょう。
そのまま自動ドアの前に立つ。
彼がこぼした球のような言葉だけが頭の中をいつまでも転がっていた。
部屋の白いばかりの照明の下で見るとどれも大して美味しそうには見えない。
テーブルいっぱいのデザート。クリームと、小麦粉と、フルーツの山。
グロテスクな光沢。
空しいばかりの豪華な食卓。
隣の部屋のテレビの音。
僕は前線に出る気分で最初の一つを手にとった。
甘い。
美味しい。
クリームを舐め、スフレをかき込む。瞬く間にテーブルの上はゴミで溢れる。
食べているとなぜか彼の笑顔を思いだした。
初めて彼を見た日や、セルティさんの部屋で鍋をつついた日、サイモンさんに同時に捕まって寿司を食べた日、彼がダラーズを抜けると言った日、そしてそれはつまり、カウントを始めた日。
一週間の小さな楽しみ。
このくそばかばかしい混沌に望んで身を投じてしまった、そしてその状況を余りにも愚かにも積極的に楽しんでいるこの僕の、唯一無二の支え。
ぼくのかみさま。
───なんて馬鹿なんだ。
スポンジケーキは三口で胃の中に消えた。
作品名:LLGA & BBIM 作家名:たかむらかずとし