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春の目覚め ・1

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 くそぅ。意識だけは生きていながら、動けないことが本気でもどかしい。

 一度外へと出て、車に乗せられ、どこか遠方にある館に入ったらしいと、耳が拾い続ける音だけで判断してみる。
 と、いきなり冷たい床に投げ出された。
 もっと丁寧に扱ってくれ! そんな文句を言おうにも体は未だ復活していない。
 ぐったりした体が起こされ、そのまま壁に寄り掛からされる。
 ガシャリ、と冷たい音を立てて、右手、左手、そして右足と左足にそれぞれ太い鉄枷が嵌められた。その先にはこれも太い鎖が続き、そのまま壁に繋がっている。

 そこまでするか。くそったれ。

 罵りながら、動かない視界で見える範囲での現状を見詰める。
 一人、減っている…?
 唯一、ドイツの「死」を悼んでくれた若い男の姿が見えなかった。ここまでの道中に、何かあったのだろうか。
 いや、今は他人のことを考えている場合ではないな。
 よもや、上司によって牢にぶち込まれる日が来ようとは思いもしなかった。しかも、枷付きで監禁状態だ。

――兄さん、すまない。完全にドジったようだ。

 心の中で兄に謝罪してみるも、思いっきり叱られそうだなという予想が立つだけだった。




 どのくらいの時間が経ったのか、ドイツは指先に力を入れようと試みた。動く。
「くそぅ…」
 掠れた声がこぼれ落ちた。
 ガシャガシャと音を立てて枷と鎖を引き千切ろうと藻掻き始める。ドイツの力を始めから考慮していたようで、簡単には切れないように作られているようだ。
 技術の無駄使いにも程がある。こんなところでドイツの誇る技術力を発揮してくれなくも良いと言いたくなった。
 自分の腕を切り落として外した方が早そうだと思えるほどに、枷も鎖も頑丈らしかった。両手両足を繋がれていては、自分の腕を切り落とすのも難しい気がしたが。
「こうなったら、俺の手首が引きちぎれるのが先か鎖が切れるのが先か、やってやる…!」
 苛立ちのままに、枷と鎖を外そうとドイツは暴れに暴れる。
 手首から血が滲み、そのまま軍服の袖を汚していくが、構わずに枷を外そうと藻掻き続けた。
 しかし、あまりの暴れっぷりに部屋の外まで音が響いてしまっていたようだ。
 館の監視役として配置されていたのだろう、二人の親衛隊がドイツの繋がれた部屋に慌てて入って来るのが見えた。
「くそっ。ここまでか…」
 忌々しげに、そう呟く。
 親衛隊は、ドイツの凄惨な姿を見て息を飲むものの、すぐに銃を構えた。
「お許し下さい…。ご命令なのです」
 そう呟く一人。もう一人が、躊躇い、そして、止めるような仕草を取ったようだったが、遅かった。
 狭い部屋に銃声が立て続けに響く。
 衝撃で壁に打ち付けられ、そして、ドイツは再び崩れ落ちるようにして意識を失った。




「くっそぉ、出ねぇな…」
 電話、無線機などを使うだけ使っていたプロイセンは忌々しげにそれらを元に戻した。
 ドイツと別れてから二日が経過している。その間に、連絡を取ろうと作戦本部や司令部などに掛けまくっているが、一向にドイツに繋がる気配はなかった。
 たった二日、なのか、二日も経った、なのか。判断は難しいが、今現在のプロイセンにとっては二日も連絡が取れないのは重大なことだった。
「もう用は済んだんだろうが。さっさと戻れ」
「やかましい、言われんでも戻るってんだよ」
 戻る前に一度でも連絡を取れれば、と思ってたいたのだが。
 大丈夫だ、とは思えない何かがあった。ずっと胸騒ぎが続いていた。
 いつでもベルリンに戻れるように、すでにプロイセンは身支度は調え終えている。
「おい、お前の持ってる車で一番早いやつ貸せ」
「頼み事もいちいち命令形? なんでそう偉そうなんだよ、てめぇは」
「うるせぇな。いいからさっさと貸しやがれ」
「――あ、ちょっと待て。っと、なに? 俺に電話?」
 話の途中なのに相手が電話の元に行ってしまい、残されたプロイセンは落ち着かない様子で頭をがりがりと掻きむしる。
 苛立ちが不安が治まらない。

 何で、連絡が付かねぇんだ、ヴェスト。

「おい、プロイセン」
「あ?」
 そう呼ばれ、プロイセンは振り返る。男が神妙な顔で受話器を寄越す仕草をしていた。
「お前に。バイエルンから」
「ああ? バイエルンだぁ?」
「ドイツと連絡が付かないと騒いでいる」
「な、んだと…!」
 思わず受話器を引ったくるようにして掴み取っていた。
「おい、どういうことだ!?」
『それはこっちのセリフだ! どうなってる!? なんでお前がドレスデンにいるんだ! ベルリンはどうなっている!?』
「好きでこんなとこに来てねぇよ! 上司命令だ!」
『この二日間、ドイツと連絡が付かないとあちこちから問い合わせが来ている! 確認に本部と数カ所の作戦支部に問い合わせても、そこの連中でさえドイツの姿を見ていないという回答ばかりが返って来ている!』
「二日…俺と同じか。じゃあ、やっぱ俺と別れた直後からということか…」
『やっぱりとはなんだ!? ふざけるなよ、貴様! 貴様が付いていながら、なんだこの様は!?』
「だから、好きでベルリンを離れてねぇ! ドレスデンを爆撃されたザクセンの様子見と混乱している現地での指揮を取りに来させられたんだ、俺は!」
『断れ! 馬鹿者が!』
「うるせぇ! 断れるくらいなら、始めからベルリンを離れてねぇんだよ!」

『ヴェー…。プロイセーン、ドイツが俺とも連絡取ってくれないんだよぉ』

「うお!? その声、イタリアちゃん!? なんでバイエルンっとこにいんだよ!?」

『ドイツ、ドイツ言いながら探し回ってる所を鉢合わせした。で、一応、保護しておいた』
『ほ、保護は無いよ! 俺だって、一応、ちょっとは戦って…』

 バイエルンとの会話にイタリアが割って入ろうとするが、バイエルンがそれを許さないらしい。イタリアの声は遠い。

「とにかく、俺は今からベルリンに戻る。イタリアちゃん、ヴェストは大丈夫だからな」
『あ、プロイセン、俺もベルリンに行くよ!』
「ベルリンは今は危ねぇよ。これから激戦区になる。イタリアちゃんは――」
『行くってば! 行くからね!』
 そう言って受話器を放り投げて走って行ったのか、微かな足音だけが聞き取れた。
『おい、こら! ……本当に訳が分からんな、イタリアは』
 そう呟くバイエルンには悪いが、イタリアとの会話で少なからず気持ちが和んでしまったプロイセンは久しぶりに笑みを零していた。
 イタリアちゃんはやっぱ可愛い。天使だ。
 そんな僅かな癒しすらも、苛立ったバイエルンの声が壊してくれたが。
『とにかくだ、』
「今すぐ、ベルリンに戻る。状況が分かり次第、連絡を入れてやる!」
『あ、ああ。…頼む』
 受話器を叩きつけるようにして置き、プロイセンは支部として使われている屋敷を出る。そのまま、玄関口に用意させた車に乗り込んだ。
 見送りでもするつもりなのか、男が玄関先まで姿を見せた。
 爆撃で負った重度の火傷やその他の傷は深い。今しばらくは色々と動きが制限されるだろう。そんな男をプロイセンは軽く眺めやる。
「何か動きがあれば俺かバイエルンに連絡寄越せ」
「言われんでも分かっている。さっさと行け」
作品名:春の目覚め ・1 作家名:氷崎冬花