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明鏡止水

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 正臣の離反。帝人との対立。子どもでありながら正臣は玉座の側近だった。そして同時に彼は、王宮に溜まった膿――国家転覆の造反者である高官と地下で繋がっていた。ずるずるとしがらみに引きずられ、造反者に手を貸す羽目になって。嵌められたと気づいた時にはもう、正臣は帝人に刃向かう存在となっていた。
 大事な幼馴染みで、敬愛すべき主である帝人と何が嬉しくて対立しなきゃいけない。ひとかけらも正臣の本意ではなかったのに、亡命か死か、もう取り返しのつかない事態にまで拗れていた。
 そんな崖っぷちに立っていた正臣を救ったのが折原臨也であった。
 臨也は導いた。時には罠を仕掛け証拠を捏造し、正臣を通してこの国の中枢を巣食う汚職を暴いた。表向きは、黒幕を追いつめ動乱を解決に導いたのは正臣という事になっている。けれど、真実は違う。
「俺を嵌めて関わらせて、沙樹を半殺しの目に遭わせて、帝人を引きずり出して、あれは全部あんたの仕業なんだろ?!俺を利用しつくした事はいい、沙樹の事も個人的には許せねえけど沙樹が『いい』っつってんだから俺は何も言えない。でも帝人は、あいつにだけは手を出すな!」
「頼もしいねえ。さすがは帝人くんの『忠臣』だ」
「違う!」
 薄い笑みは揶揄の顔。馬鹿にされている。
 正臣は激昂した。もう声を抑えられない。――主も従者も関係あるか!
「あいつが俺の大事な奴だからだ!」
 一連の汚職事件の犯人の裏、黒幕のひとりは正臣という事になる。だが、ほんの一部の人間も気づいているかは分からない、少なくとも帝人は知らない真実。
 真の黒幕はこの男、折原臨也だった。
 小さな悪意を芽吹かせ育て、汚職事件を作り上げた。ひとりきりで、彼は王宮の勢力図をひっかき回して図式を塗り替えてしまった。正臣は臨也に救われた。黒幕の濡れ衣は晴れ、正臣は帝人の側近に返り咲いた。そういう風に、臨也が配置したのだ。だからこうして正臣はここにいる。彼の意思とは無関係に。
 どうして俺なんかを俺を助けた、と叫んだ正臣に、本性を現した臨也は言った。
「別に君を助けたくて助けたんじゃないよ。君がいなくなると、帝人くんが悲しむからね。そう自棄になるもんじゃない。『君なんか』でも、まだまだ価値はあるさ」
 能力を買われたわけでも、価値を認められて残されたのもはない。帝人のため、その一点のために臨也の手駒のひとつとして、正臣は盤上に戻されたのだ。以前なら死にたいくらい屈辱だったかもしれない。臨也への憎悪は消えない。それでも今は、ただこの場所に立っている事に安堵していた。
 外道にいいように利用されたのは自分が未熟だったせいで、でもどんな理由があろうとまだ、自分は帝人の傍にいられる。魑魅魍魎が跋扈する王宮の中で、あいつを護ってやれる。それだけが歓びだった。
 真正面から歯向かって勝てる相手じゃない。散々痛い目に遭って解った――解らされた事だった。解ってはいても、帝人がこの男に気を許すのを、黙って見ていられなかった。
 臨也は目を細めて正臣を見ていた。気のせいではなければ、どこか興味深げに。
「若いっていいねぇ。まだまだ成長できる、伸びしろがあるんだから」
「なにを年寄りみたいな!いや、そうじゃなくて……、結局あの時、俺らを利用してまで何がしたかったんですか、あんたは。派手に暗躍してた割には計画総崩れって感じだったし」
 すべての混乱の原因を作った黒幕。臨也の目的がいまだに不明瞭だった。混乱に乗じて国を獲りにくるのかと思っていたら、正臣の告発と事態の収束を見届けた臨也は、また一旦表舞台から姿をくらませた。
 まるで、臨也の一連の動きは悪事を暴くのが目的のようにも見えたが、逆は有ってもそれだけは無い。絶対に無いと言い切れる。その癖臨也は「計画通り」って顔して、帝人に取り入っているけれど。
 おやおや、と男は芝居がかった仕草で肩を竦める。
「よく誤解されてるようだけど、俺は別にそんな大それた野望なんて持ち合わせていないよ。まあいろいろと企んでいる事はあるけども、それは全部、個人的な趣味に起因するささやかなものなんだから」
「は?」
「俺は普通の人間だってば。そんな、超人的な能力なんて持ち合わせていない、ちょっと頭の使い方を知っているだけの、普通の人間だよ。ああ、嫌味に聞こえる?いやいや、俺程度の脳みその持ち主なんてエリート階級には腐るほど居るさ」
 買い被ってくれるのは嬉しいけど、後々面倒なんだよね、と男は嘆く。どの口で言う。そういう印象操作も計画的な行動の一環だろうに。
「普通の人間である俺は、持てる術を精一杯駆使して、ささやかな願望を成就させようとしていたわけだ。大変だったけどね、ぶっちゃけ楽しかったよ」
「それが本音でしょ、あんたの。で、ついでにささやかな願望とやらを訊いてもいいすか」
「んー」
 いつもの嘘臭い爽やかな笑顔で、男は首を傾げ。まあいいか、と口を開いた。
「結果の副産物として、オマケでこの国が付いてくることになるけど、別に玉座だ政権だなんてものに興味はない」
 低いのによく通る臨也の美声を聞きながら、心底不愉快かつ、非常にキモチワルイ、と正臣は思った。うっすらと予想していた、最悪の答えが返ってきた。

「俺が欲しいのはね、帝人くん。それだけ」





 大理石の廊下には似つかわしくない、ばたばたと忙しない足音が近づいてきた。
「何騒いでんの正臣!衛兵さんが心配してたよ!」
 廊下を駆けてきた帝人がはあと息を吐いて、眉根を寄せた。
「あれ、どうしたの正臣、なんか顔色悪くない?」
「……いや、俺はいつでもこんな感じだろ」
「そう?正臣って、本当にしんどい時でも適当な冗談で誤魔化すんだもん」
 訝しげに正臣の顔を覗き込んだ帝人は顔を上げて、たたずむ黒衣の男に目を移した。
「あ、すみません臨也さん、ろくにお構いもしていなくて!来られてたなら一声掛けてもらえればよかったのに」
「今日はちょっとした用でお邪魔してただけだったから」
「それでも、分かっていればお茶ぐらい用意しますよ」
「お誘いは嬉しいけれど、また今度ゆっくりさせてもらうよ」
 優しげな大人の顔。正臣の知る禍々しい笑顔の臨也など、帝人はきっと知らないだろう。
 目に見えて明るい、嬉しそうな表情で応対している帝人の横顔を、正臣は苦々しさを噛み締めながら見ていた。
 他愛ないやり取りを交わし、正臣に取って腹立たしい事にキスとハグの挨拶をして、臨也は黒のコートを翻し去っていった。姿が完全に視界から消えたのを確認するやいなや、正臣も踵を返し、早足に歩き出す。
「どうしたの正臣、なんか変だよ」
「変って何がよ?俺はいつだって個性的な立ち振る舞いなもんで、だからちょっとばかし目立っちまうのが玉に瑕ってやつだな」
「そのいい加減な軽口はいつも通りだけどさ!もしかして怒ってる?」
 図星だった。帝人にまつわる、帝人以外ものに苛立っていた。頭を冷やせ、簡単に帝人に気づかれてどうする、それだから子ども扱いされるのだ。
「おーい、正臣ってば!」
作品名:明鏡止水 作家名:美緒