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ありえねぇ !! 4話目 前編

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五年前に終わった事件を、今蒸し返されては堪らない。

だが、赤林はくつくつと喉を鳴らし、笑い出した。


「本当に先生はお人が悪い。一体何処までご存知なのですか? その様子だと、園原沙耶香が切り裂き魔だったって事も知っていらっしゃるのでしょう? それは許されない…………、そう、絶対に許せねぇなぁ」

口調を切り替えた赤林は、すうっと杖を横向きに持ち替えると、仕込み刃の刀身を少し覗かせやがった。
静雄は直ぐに立ち上がり、新羅を背に庇うと、拳を握り締めて睨みつける。

「あんた、本当に園原杏里の父親か?」
「正確には、後見人だ」
「どういう繫がりだよ」
「俺は杏里の母親に惚れていたんだ。ああ、彼女は本当に強かった。
初めて出会った時、彼女は返り血にまみれて笑っていた。目撃した俺に日本刀を振り回し、俺の目に刃を突きたてた。
女に負けたのは初めてだった。壮絶に美しかった。俺が本気で惚れて求婚したのは、今までの人生であの人一人だけだ。
既に人妻だったが、今でも忘れられない、一生愛している」

(このおっさん、頭のネジいかれてんじゃねーか!!)

赤林の片目が義眼なのは有名な話だが、今の流れからいうと、どうやら彼は、自分の目を一つ駄目にしてくれやがった女に、一目惚れして求婚した事になる。


「だから彼女が【切り裂き魔に殺された】時、俺は直ぐにわかった。杏里の首には絞め殺されかけた痣が残っていた。薬に溺れた馬鹿な男が、てめぇの娘に保険金をかけて殺そうとしたって。あの人は杏里を助ける為に、旦那を切ったっんだってよぉ。
俺が本気で惚れた女が助けた命だ。
俺の惚れた女の忘れ形見だ。

杏里の幸せを阻む奴らは許せねぇ。彼女の母親の秘密を知るものは……、生かしちゃおけねぇんだよ……!!」

仕込み杖の鞘を抜き放ち、突いてくる。
静雄には、どんな刃物も五ミリしか傷を負わせる事ができないのに。
溜息混じりに左肘で刃の突きを防ぎ、右拳で垂直になった刃をへし折る。
冷静な行動と裏腹に、怒りで頭が沸騰し、一瞬で視界が赤く染まる。


「……赤林さんよぉ……、人にドス向けたら普通死ぬよな? って事は、あんた死ぬ覚悟で、俺に刃物向けたって事だよなぁぁぁぁぁぁ?……人に刃物を向けたんだ。だったら、殺されても文句は言えねぇって事だよなぁぁぁぁぁぁ?」
「静雄!! ストップ!!」

革張りのソファーを片手で持ち上げ、大きく振りかぶる。
だが、そんな自分の腰に、新羅が勢い良くしがみついた。

「今日は喧嘩ご法度って言っただろ?」
うぜぇ!!
「何があっても黙ってろって!!」
しつけぇ!!
「君が埋められたらミカド君はどうなる!? 今の彼は静雄しか頼れる人間がいないんだよ!!」 
「……!!」

ミ・カ・ド・?
不思議な事に、たった三文字の名前を聞いた瞬間、真っ赤に染まった視界が急に晴れやかになった。

振り上げた革張りのソファーを静かに下ろす。
すると、新羅が自分と赤林の間に立った。

「赤林さん、私達は杏里ちゃんの幸せを願う側の人間です。私はセルティ繫がりで、静雄は竜ヶ峰帝人を経由した知人。また竜ヶ峰君にとって、杏里ちゃんは本当に大切な子だったから。決して彼女の将来を棒に振るような秘密を、今後も暴露する気は毛頭ありません。
それに、私は兎も角、『池袋の自動喧嘩人形』をどこかの山林に埋めるには、そちらの犠牲はかなり大きくなる筈です。下手したらこの事務所まで瓦礫になりますよ。ですから、いっそ協力し合う事を、私は提案しますがね」

「……【竜ヶ峰帝人】君。確か今、意識不明の重体でしたっけ……」
「ご存知でしたか?」
「そりゃ、私の杏里の、頼もしいナイトの一人ですからね。…………、判りました。今回はそれで手打ちにしましょう」

赤林は大きく息を吐くと、刃の折れた杖の鞘を拾う。
ぱちんと音をたて、刃がしまわれた途端、緊迫していた部屋の空気が変わり、また穏やかな雰囲気が戻り、静雄も肩の力が抜けた。

「もし、杏里の件で何かありましたら教えてください。もしこちらで彼女に関しての情報が掴めましたらお知らせいたします。それから後……、竜ヶ峰帝人君にお会いしたら、『お大事に』とお伝えください」



★☆★☆★


結果的には、協力者をゲットできたと取り、進展を喜ぶべきか?
それとも、【那須島隆志】の他に、別な誰かいるという新たな謎に頭を痛めるべきか?

それにさっきのは一体何だったのだろう?


ヤクザ事務所を出た静雄は、早速口にタバコを咥え火をつけた。
頭がぐるぐるする時は、こうして一服しなきゃ落ち着かない。

初めて自分の力を思い通りに止められたのは、先日、100人以上の【罪歌の孫】達と、西池袋公園でやりあった時だった。
だが、今日みたいに沸騰した怒りが一瞬で霧散してしまった現象なんて、今まで経験した事がない。


「きっと、静雄の心が癒されてきているのかもしれないね」
「ああ?」
「ほら、ミカド君の存在さ。霊っていうのは肉体が無い分、自分を飾りようがないからね。純粋な光を浴びせられ続けているのと同じなんだ」
「……意味わかんねぇんだけど?……」

「んー……、考え方は今流行りの【パワースポット】と同じだよ。神社とか神気が満ち満ちている気持ちの良い場所に行けば、心も体も清められて力が漲るけど、逆に恨みを持った祟り霊が集まるような所に足を踏み入れたばっかりに、【霊障】を喰らって病気になったり、不幸な事故にあって、死んだりするだろ?」
「……そういうモンなのか?……」

「うん。ミカド君って、話に聞く限り、凄くほのぼのしてるし。イメージで言えば、【春の陽だまりで昼寝するチワワ】でしょ? 霊魂の影響力は半端じゃないし。そんな存在と四六時中一緒に暮らしてれば、静雄がミカド君パワーに感化されて怒りが霧散しても、私はおかしくないと思うよ」

試しに脳裏に帝人の生首を思い浮かべてみる。
ほえほえっとした笑顔と、ぽむぽむ弾むあどけない仕草を思い出した途端、急にがくりと肩から力が抜けた。

「…………マジかよ?…………マジじゃねーか、おい…………、何だこの脱力感は!?……」

新羅が目をきらきらさせ、ぱちぱちと拍手してきやがった。
「おめでとう。ミカド君の存在を有効に活用できれば、直ぐに『怒り』もコントロールできるかもしれないね。いやぁ、本当に興味深い子だよ。是非とも一度解剖してみた……、ぶへぇおあぁ!!」


再びイラッとした気分にしてくれやがった存在を、裏拳一発で沈める。
道に蹲って倒れた新羅を置き去りにし、静雄はずんずん歩き続けた。

「ったく、あのマッドサイエンティストめ。解剖解剖って、うるせぇんだよ!!」

スパスパと紫煙を吐き出すが、一度湧いたイライラに歯止めがかからない。
もう一度実験してみようかと、ミカドの事を脳裏に描こうとしたその時だった。


「おい、てめぇも【ダラーズ】なんだってなぁ?」

右側から、野太く凄みを利かせた声がする。
「ああ?」

振り向けば、体の何処かに黄色い布を纏った男達が、手にそれぞれ鉄パイプやバットなどの獲物を持って、三十人ぐらい集まり、一斉にガンを飛ばしてきやがった。