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潜熱のゴールデンサンズ

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 押しの強い奴だった。それは知っていた。ザックスと面識のある者にはすでに周知だ。
 だが彼に引き連れられたクラウドは気が気でない。
「いいだろ、アンジール!」
「それが上官に頼むことか」
 心情的には友人を援護してやりたいが、先任ソルジャーのぼやきこそが正論だとクラウドの理性は判断していた。
「いい機会だから教えてやろう。子供を遊園地に連れて行くのは、上官でなく父親の役目なんだ」 
「ムリムリ。うちのオヤジ年寄りなんだもん。ジェットコースターなんか乗せたら昇天しちまう」
 そうなんだ? と呟いたクラウドに、
「おうよ。俺は父ちゃん母ちゃんが歳いってからの子でな。村の友達にはじいさんって呼ばれてた。おまえんとこは?」
「俺の父さんは……顔も知らないんだ。まだ俺が小さいうちに死んだから」
 すると太陽のようだった笑顔がみるみる沈んでゆき、
「……そっか。ゴメン、悪いこと聞いたな」
「いいんだ。べつに悲しいとか、そういうのは無いんだ。もともと覚えてないから」
 慌てて付け足したが手遅れだったらしく、よしよしと頭を撫でられてしまった。
 そして年若いソルジャーはじっと何かを訴える子犬のような目で、上官を見つめる。
 アンジールが大きく息を吐いた。
「……今回だけだぞ」 
 二週間ほど前の話だ。

 守備よくアンジール陥落に成功したザックスは、その足でブリーフィングルームを出た。そして同フロアの北側通路へと向かう。歩行スピードの速い友人をクラウドは懸命に追いかけ、
「あのさ、俺はもう戻るから、あんただけで……」
「やった。在室だ」
 小さくガッツポーズを作ったザックスは、そのまま許可も得ずにドアを全開にした。
「セフィロス!」
 あまりの無遠慮さにクラウドは狼狽したが、部屋の主はまったく表情を変えなかった。たぶん慣れているのだろう。
「ほい、これ休暇の申請書。承認済みのサインくれ。二人分な」
「何故オレに。ラザードに提出しろ」
「残念。ラザード統括は不在なんだ。代理にあんたのサインで頼むよ」
 ふんとセフィロスは鼻を鳴らし、
「狙ったな?」
「まあ統括も話の分かる人だけどさ、あんたのほうが確実だからな」
 とりあえず見せてみろと手を伸ばす上官にザックスは用紙を渡し、
「ネヴルーズの休暇だよ。俺ら、ゴールドソーサーに行くんだ」
「春の遠足か。結構なことだ」
「アンジールに車出してもらうんだ。このあとクラウドの休暇申請も済ませてくる」
 するとセフィロスは再度、ふんと鼻を鳴らした。
「子供たちの引率か。アンジールの苦労が偲ばれるな」
「あんたも来いよ」
 両手をついて身を乗り出し、
「ネヴルーズ期間中は、ショーやパレードも特別バージョンになって面白いみたいだぞ」
「……おまえがそこまで心無い奴だとはな、ザックス」
 眉間には皺が寄っていた。際立って彫りの深い顔立ちのせいか、わずかな変化でも無駄に迫力がある。
「知っているんだろう。例のごとくオレは仕事だと」
「だからさ、終わったら来いって。俺ら泊まりで三日間いるからさ、途中で合流ってのは?」
「……いっそ辞めたいんだが」
 どさりと背凭れに体重をかけ、セフィロスの椅子が大きく軋んだ。
「オレの辞表は常にこの執務机に潜み、発動のときを待っている」
「そりゃ困るな。あんたが馬車馬でいてくれないと、俺らに皺寄せがくる」
「今のを聞いてよけいに辞めたくなった。もう辞める。明日にでも辞める。すぐ辞める」
「あんたそればっかりだな」
 駄々っ子と化した上司にザックスは肩をすくめ、クラウドは右手で顔半分を覆った。
 ……だから来たくなかったんだ。
「いいじゃねーか。ネヴルーズ中の勤務は特別手当つくんだろ?」
「何なら代わってやってもいいぞ。警護とは名ばかり、長々と演説をかますプレジデントの隣で突っ立っているだけの役目だ。誰でも務まる」
「バーカ。あんたが立ってることに意味があるんだろ。他の奴じゃ意味がねえ」
「ならばヘルメットを被った上からオレの顔写真でも貼っておけ。戦闘服なら貸そう」
「正宗は?」
「そいつは貸せんな。適当な物干し竿でも調達しなくては」
 真顔で腕を組む姿に、何かがガラガラと崩れ落ちてゆく音が聞こえる気がした。
『英雄は、遠くにありて思ふもの。』 ――クラウド、心の川柳である。
 華々しい戦歴と類稀なる美貌を併せ持ったセフィロスは、十代の頃からすでに神羅の広告塔だった。新聞記事ばかりでなく、芸能人ばりのグラビアも毎月のように特集が組まれるほど氾濫している。しかし、なぜか直接のインタビュー記事は少なかった。まして肉声となれば極めて稀だ。
 軍人らしく無口なのかとクラウドは漠然とイメージしていたが、入社してから真相を知った。
 理由は単純。ろくなことを喋らないからだ。
 彼はその重厚なたたずまいから想像されるよりもずっと気分屋で、おまけによく喋る。
 確かに自分から声をかけて回るタイプではないのだが、何かの拍子にスイッチが入ると途端に語りモード突入だ。廊下を歩きながら一人で冗談らしきことを呟き、クックッと笑っている時さえある。立場上、誰もツッコミを入れられないので対応に困るのだ。
 そして話題の大半が、使えない上司の悪口、超過勤務への愚痴、さらには辞めたい辞めたいとそればかりだ。草臥れたサラリーマンと大差ない。もし彼の単独インタビューがTVで生放送されようものなら、神羅のイメージ戦略は総崩れである。
「だったらさ、なんでスッパリ辞めちまわねえんだ?」
 明らかに面倒顔のザックスは、どっこらせとデスクに腰掛けた。
「あんたの階級なら、年金だけでも暮らせねえことはないだろうに」
「生憎オレはまだ勤続七年だ。満額の軍人恩給にはほど遠い」
「計算おかしくねえ? あんた子供の頃から戦ってたんだろ?」
「ああ、だが当時の身分としては各種ミッションに民間人の協力者が同行していただけで、軍属ですらなかったのさ。公的な規定においてオレの勤続年数カウントが始まったのは、治安維持部門からソルジャー部門が分離・独立し、配属されて以降のことだ」
 やたらと通りのいい美声でセフィロスは己が身の上を愚痴り、
「つまりオレの人生、六歳から十八歳までは完全にタダ働きというわけだ。いっそ労働基準監督署に訴え出てやりたいが、とうに時効ときている」
 軍は労基署の管轄外なのではとクラウドは思ったが、たぶん冗談の一種なのだろう。
 ザックスは上官の肩当てをポムポムと叩き、
「まあ元気出せって、あと何十年かの辛抱だ。……けっこう長いけどな」
「不条理だ。世にオレほど、退職の日を指折り数えて待ち望む男もあるまいに」
 ゆっくりと首を振ってからセフィロスは天井を仰ぎ、
「リタイア後は大手を振ってミッドガルを離れ、思うさま引き篭もって暮らすんだ」
「あんた田舎で余生を過ごすつもりなのか?」
「そうだ。丁度いい、おまえ達にもオレの輝かしい老後プランを聞かせてやろう」
作品名:潜熱のゴールデンサンズ 作家名:ひより