月がとっても碧いから
俺様は猿飛佐助。真田忍隊の長をやっている。今はお館様の任で諸国の様子を見て回っているところなんだけど、でも諸国を見回るってどうよ。途中で連絡は入れているけれど、かれこれ一月あまりも帰れてないんですけど・・・
北から回り始めて今日はとうとう薩摩まで制覇してしまった。
――― いくら戦が無い平時だからってこれはどうよ。あと半月くらいかかりそうなんですけど・・・俺様、働きすぎ、泣けてくる ―――
さんさんと照りつける太陽を仰ぎながら、残すは、海賊と太陽信奉者。それからまた京を見回ってようやく上田に帰れそうだと思い、少しは先が見えてきたことに、ふっと口元だけで薄く笑う。ここの太陽はいつも何かと世話を焼いている主を連想させる。
――― あついねぇ。旦那は元気にやってるかなぁ ―――
さて、早く旦那の元に帰る為にもさっさとお仕事片付けますか。
気合を入れたところに連絡用に使っている見慣れた忍隊の烏が飛んでくるのが見えた。
いつもはこちらから連絡することが多いけど、あちらからの連絡なんて珍しい。何か急ぎの連絡だろうか?
なにか良くないことが起きたのかと佐助の胸に黒い影がさす。ピイーと口笛を吹けば烏は佐助の元に舞い降りてきた。佐助は烏の頭をなで労い、急いで携えてきた伝令を確認する。
「急ぎ戻れ」
――― なにこれ。ぜんぜん意味わかんないし。いや、意味は解る。早く帰らなくてはいけなくなったことは。ただ、理由がわかんない。―――
理由がわからないと余計に色々な事を考えてしまい、不安になる。とにもかくにも、早く帰ろう。
後半月はかかるんじゃないかと思っていた任務はこうして終わりを迎えることになる。
◆◆◆
「猿飛佐助、伝令を受け急ぎ戻りました。」
「うむ。ご苦労であった」
一月ぶりに帰った甲斐はなにやら少し様子が変わっていた。
任務の報告を一通り終え、お館様の様子を伺えば、なにやら難しい顔をしているし。何より静か過ぎる。いつもはお舘様のそばにいる旦那の姿が見えない。暑苦しいくらいの気配が、無い。
背中に冷たい汗が流れる。もしや旦那の身に何か起こったのかと問おうとした時だった。
「佐助。幸村に何をした。そなたなんぞ身に覚えがあろう?」
なんて質問された。え?なになに?何か予想外な質問が繰り出され俺様「はあ?」なんて大将に返事かえしちゃったよ。
「何の事を言っているんです?旦那に何があったんですか?」
「5日ほど前、幸村が倒れたのじゃ。」
「えっ旦那が!って俺様大将の命で任務に出てたんですから旦那に何かできるわけ無いでしょう!俺様が疑われるってことは、毒かなにかですか!?旦那はどこだっ」
突然のことでお舘様相手に失礼な物言いになってしまい、はっとする俺様をよそに、お舘様はすこぶる疑いの眼差しをよこすだけだった。
――― 俺様何もしてません。―――
旦那は自室の床に寝かされていた。旦那が横たわる傍らに座り、俺様は言葉が見つからない。
苦しそうに眠り続ける旦那からは絶えずうわ言が漏れる。
「う・・あ、さ、すけ・・好き・・・」
「・・・」
なんだこれ。どうしてこうなった。眠り続ける旦那の告白を聞きながら、赤面しつつ途方に暮れる。
――― 本当に俺様何もしていません!! 大将、信じて下さい ―――
作品名:月がとっても碧いから 作家名:pyon