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ひわひわのお話。2

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「ホストクラブで働いてるし、お酒も飲んでるから少なくとも20歳以上よね?
 だったら結婚もできる年齢だし、全く問題ないわ。」

『いやあの問題だらけなんですけどっ…!!』

「お嬢様、先ほども申し上げましたが、りせははものではありません。
 言葉ひとつでお渡しできるような存在でもなければ、
 ましてや結婚なんてそんな人生を決める大きな決断を、
 本人の意思確認もなく行うのは如何かと思いますが?」

「あなたには聞いてないわ。
 それに私はイエスノーの確認をしているんじゃないの。
 これはもう決定事項なのだから。」

『あの、俺っ―――…』

「あのねりせは。私、父親から結婚を急かされていてね。
 お見合いさせられそうなの。お見合いというか、政略結婚ね。
 どこのお偉いさんのご子息かわからないけれど、
 何も知らない男と結婚させられるなんてまっぴら。」

『何も知らないって点なら俺も同じじゃ―――…』

「違うわよ!あの日あなたと私は運命的な出逢いをしたの。
 この人しかいない!って思ったわ。
 知らないならこれから知っていけばいいだけの話でしょう?
 そうすれば結婚生活だって毎日が新しいことの発見だわ!」

「それ、お見合い相手にも言えるんじゃないの?」

「嫌よ。私はりせはがいいの。」

「りせは、お前は?」

『俺…こんな突然結婚とか言われても―――…』



頷けるわけがない。
見ず知らずの人と、突然結婚だなんて。

そもそも性別の時点で無理ではあるけれど、
例えその問題がなくたって誰がイエスと返すだろうか。

性別の話を出せば絶対に結婚なんて考えはなくなるだろうけど、
それはそのまま俺の職を、この居場所を、失ってしまうことになる。
みんなと一緒にいられなくなるのは―――…嫌だ。

どうにもならなくなったら最後の切り札として
自分が本当は女であることを話すかもしれない。

けれど、今はまだそれは言えない。
彼女の誘いを受けることも、当然出来ない。

口ごもる俺を見て、オーナーが頷いた。



「………だよな。
 お嬢様、申し訳ありませんが、やはりりせはは―――…」

「りせは、あなた、お金に困っているそうね?」

『えっ?』



拒否の意を示そうとしたオーナーの言葉をさえぎり、
女性は突然俺に質問を投げかける。

きっと探偵に調べさせた時に知ったのだろう。
確かにお金には困っているが、だったら何だと言うのだろうか?



「1億。」

『はい?』

「私との結婚を受けてくれたら、あなたの家に1億円あげるわ。」

『えっ?!』



1億円。
彼女は確かにそう言った。

1億なんて、とてもじゃないけど俺が一生働いても稼げない額だ。
それを、この女性はいとも簡単に渡すという。

俄かには信じられない。



「冗談にも程があるだろ。
 1億とか………りせは、お前騙されてんじゃないの?」

『だ、だよな…1億なんてまさか………』

「失礼ね。私はそんなケチな真似しないわよ。
 りせは、この会社名に聞き覚えはある?」



女性が口にしたのは、日本でも有数の一流企業名だった。
海外展開もしている会社だ。
聞き覚えがあるどころの話じゃない。
日本人のほぼ全員が知っているレベルの超有名企業だ。



「私のパパね、そこの社長なの。」

『え………?』

「だから、あなたの家に1億円出すくらいわけないのよ。
 足りないなら倍…いえ、5倍の5億出しても構わないわ。
 どう?悪い条件ではないでしょう?
 それだけあれば、あなたのあのボロボロのお家を立て直すことも出来るし、
 こんなホストクラブなんてところで働かなくても良いし、
 家族にご飯食べさせるくらいわけないわ。」

「5億って………」

「マジかよ………」



さっきから、現実感のない言葉ばかりが飛び交っている。

俺が欲しいとか、結婚とか、5億円とか。
空いた手で自分の足をつねってみるけれどやはり痛い。
痛いということは、これはやっぱり現実で、嘘みたいだけど本当で。

俺の意思とは無関係のところで、
何か大きなことが動こうとしている。

―――正直、怖い。



「あぁ、安心してね。
 結婚したとしても、あなたが後継ぎになるわけではないの。
 あなたは私が父からもらっている子会社で、
 事実上取り仕切ってる副社長のサポートしてくれれば良いから。
 大丈夫、きちんと教えてあげるから、何も心配いらないわ。」

『いやあの、そうじゃなくて…!』

「あなたのご家族、喜ぶでしょうね。
 家はピカピカ、服もどれだけだって新しいものが買えるわ。
 毎日のご飯だって、節約しなくても良いから好きなものが食べられる。
 ご兄弟も、新しいおもちゃもゲームも買いたい放題よ。
 好きな学校にだって進学出来るでしょうね。
 今のような貧乏暮らしとは天と地ほどの差でしょう?」

『っ・・・・・・』



一瞬、心が揺らぐ。

性別というどうにもならない大問題があるのはさておき、
その条件は「家族のため」というフィルターがかかった途端
ものすごく眩しいもののように見えた。

確かに、今みたいなホスト業だけじゃ稼ぎはたかが知れている。
きっと一生楽な生活はさせてあげられないだろう。
女だと偽っていられるのだって、いつまでなのかわからない。

弟や妹たちはまだまだこれから成長期だ。
教育費だけで考えたってどんどんお金がかかる。
極貧とまではいかずとも、満足のいく生活はさせてあげられないだろう。



額が大きすぎて実感がわかないし、
自分のためだというのであれば迷いはない。
初対面の人と結婚するなんて意思は毛頭ない。

―――けれど。

家族のためだと思うと救いの手を取りたくなってしまう。
それで家族が幸せになれるのなら、と思ってしまう。

でも、ここにいたい。
みんながいるこの店が好きだ。
俺は、ここのホストでいたい。

でも、家族にも幸せになってほしい。



「ほらりせは、行きましょう?」

『・・・・・・・・・』

「りせは?」

『俺、は―――…っ』



選べない。

結婚は、したくない。
家族は、幸せにしたい。
店には、残りたい。



「あなた、家族を幸せにしたくないの?」

『っ………!』

「今の苦しい生活のままで、平気なの?」

『………』

「一生、ここでホストとして生きていくつもり?」

『………』

「できないでしょう?いつか終わりが来るわ。
 その時、あなたと、あなたの家族の生活はどうするつもり?」

『で、も…俺っ………!』



ずっとずっと、この生活が続くなんて思ってない。
いつか、女だとバレる日が来るかもしれない。
考えたくないけど、お店がなくなるかもしれない。
もし両方なかったとしても、ずっとホストなんて無理だ。

わかってる。
頭の中では理解している。
ただ、気持ちが追いつかないだけだ。



『俺、は―――…』
作品名:ひわひわのお話。2 作家名:ユエ