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すみびすみ
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novelistID. 17622
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KGが上田城で一目惚れを使ったようです

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「俺はもう、二度と慶次殿とは会いたくないとさえ、考えてしまったのだ」
思わず苦笑いした。辛辣だがそれも無理はないと思う。あの男といったらあらゆる意味において型外れで強烈で、主には新鮮すぎて刺激が強かったのだろうと見える。今一つ返答に困ることばかり言ってくるあの男は、たしかに多くの人に好かれるかもしれないが、同時にあまり係わり合いになりたくない人間も着実に作り出してきたのだろう。
個人的には決して嫌いではないのだが。
幸村は目を開けた。
「なあ、佐助」
「ん?」
すう、と息をする音がかすかに聞こえ、目がまた伏せられた。
「思いを向けてくるとわかった相手には、一体どのような態度で接すればよいのだろうか」


*****


「前田殿は、誰にでもあのようなことを申されるのでござるか」
約半刻ほど、慶次から問いかけてもひたすらに生返事を繰り返すだけだった幸村が、はじめて意味のある言葉をなした。
 日のあたる縁側に座って落雁を頬張っていた慶次は首だけ振り返り、ひどく気の抜けた返事をした。先日城を荒らした詫びに、と持参され、折角だから一緒に食べようぜ、と無理矢理に座敷に持ち込まれたそれは、詫びる側だったはずの本人によってもう半分以上が消費されている。
「何の話?」
「何の話、ではござらん。先日前田殿が上田に来られた時のことにござる」
うーん、と慶次は全力で首を傾げた。しばしの間全身を使って半月ほど前の記憶を捻り出そうと苦しむと、手に残っていた菓子を一息に口に入れ、眉間に皺を寄せながら咀嚼し、やがてごくんと飲み込んで、言った。「ごめん。さっぱりわからない」
 言い終わらぬうちに幸村は盛大な溜息をついた。苦々しげに唇を噛み締めてまた黙り込む。それまで散々、女っ気のない城内の暑苦しさを嘆いてみたり、放浪の途中に見聞きした面白そうな事物について口に出したりしてはひとりでからからと笑っていた慶次も、さすがに続ける言葉に詰まった。どうやらこの若者は本気で怒っていると見える。
実家に帰れと迫り来る叔父夫婦の絶妙な連携攻撃をすんでのところでかわし、長い長い恐ろしい説教からなるべく遠ざかる方向を目指した末、慶次は再び上田城を訪れた。気楽な放浪の旅が一転して逃避行となってしまい、くさくさした気分を晴らしたかったのが理由の殆どであるが、少しだけ、いやかなり、申し訳ないという気持ちも見え隠れしていた。
叔父夫婦が戦場で見たという、武田の若き兵。千の兵を塵のように吹き飛ばす勢いと強さを持ちながら、夫婦と相対した途端に全身から湯気を出し、しどろもどろに叫び始めた、という何とも可笑しな話どおり、じかに会って手合わせした幸村は実直で純粋で、慶次は大いに面白がった。二槍と全身を自在に使って繰り出す軽やかでありながら力強さに溢れた技と、何よりも少し色恋の話題を浴びせただけで過剰すぎるほど反応する様は楽しかった。
興味本位に仕掛けた喧嘩を、幸村は真面目にも正面から受け、そして、慶次の超刀が繰り出した重い一撃を、やはり正面からまともに食らった。
わざと長く溜めてから放った、隙の大きい一振りだ。地面に叩き付ければ轟音と共に瓦礫と土が舞い飛び、賑やかで面白い。慶次としてはそういう演出のつもりであったし、先ほどまで長大な超刀を上に下にとかわし続けていた幸村ならば簡単に避けられるとばかり思っていたから、土煙立ち込める周囲のどこからも反撃が飛んでこなかったときは事態がよくのみこめなかったし、やがてはるか先の地面に相手が潰れているのを見たときは心底慌てた。
加減を間違えたか。さっきまでただの喧嘩のつもりで、ちょっとした遊びを仕掛けたつもりで振るった力が相手を傷つけたことに、慶次は一瞬青ざめた。たとえ刃を向けていなかったとしても自分の持っているものは確かに武器で、そのつもりさえあれば骨を砕くことが出来る。相手を殺すことも。その可能性を考えた。
間をおかず呻く声が聞こえたので思考は途切れ、とっさに駆け寄ったが何をしていいのかわからず、足を止めた一瞬に割り込まれた。城に立ち入ったとき、主が喧嘩を受けるまでもない、と言って慶次の前に立ち塞がったところを間髪入れずに殴って退かした、幸村付きの忍びだ。慶次はただ呆然と、彼があからさまにぼやきながら幸村の応急処置を施すところを眺め、やがて、
「旦那が丈夫だったからいいようなものの、こっちだって暇じゃないんだからね。喧嘩すんのもいいけど人に迷惑かけないでよね」
と、無理矢理に追い出された。
 その後、旅を再開した後も、自分が傷つけた相手の様子が気にかかり、足は自然とこの地に向いた。京の喧嘩では何人もの人間を殴り飛ばしてきたが、自分の一撃によってああも弱々しく横たわり、包帯と絆創膏にまみれてしまった姿を思い出すと心が騒いだ。もしかしたら打ち所が悪かったかもしれない。一生残る怪我を負わせてしまったかもしれない――いつになくそんなことを考えた。
城内に足を踏み入れたときに鉢合わせたあの忍びは明らかに眉をひそめたが慶次を通してくれ、迎えた幸村も、先日この城を出た時に見たような痛々しい姿ではなかった。だから、すっかり安心しきってしまったのだ。元来沈んだ雰囲気が苦手な性分である。いつものように明るく振舞い、不安を晴らしているうちに、当初の目的を忘れてしまっていた。

「……」
 しばらく憮然としていた幸村が、音もなく立ち上がり、まっすぐこちらに来た。ずいと腕を突き出すので慶次は少し驚いたが、その手は慶次の横に置かれた皿の上に伸びた。どうやら落雁を取りたかったらしい。
「…あ、ごめん、半分食べちゃった」
 側でかがみこむ幸村を見た。目に見えるところのどこにも、包帯の類は見当たらない。が、表情を伺おうと顔に視線を向けると、頬から何かが垂れ下がっているのに気付いた。絆創膏が、半分はがれた状態でくっついているので、なにげなく直してやろうとして手を伸ばす。
 すると、幸村の体が咄嗟に飛びのくので、慶次は目を見張った。幸村は身構え、慶次よりも更に目を大きく見開いてこちらを見つめたのち、我に返ったように動いた。
「…あ、…も、申し訳ござらん」
「う、うん」
 触れようとしただけでこの反応。今更のように気まずくなる。やはり、見た目以上に酷いのだろうか。
 皿を差し出しながら、おずおずと尋ねた。
「あのさぁ。やっぱり痛む、それ?」
 落雁を受け取った幸村は、一瞬間をおいて、
「はい、少し」
 そう答えた。
その顔には何の表情も浮かんでいなかったが、慶次はこれでもう決定的にいたたまれなくなった。跳び退って、両手を合わせる。
「ごめん、本当にごめん。あんたと喧嘩すんのがあんまり楽しかったから、調子に乗って」
「…ま、前田殿?」
 いきなり謝りだした慶次に幸村は面食らい、おろおろとしたが、慶次は構わず言葉を並べ立てた。
「まさかまともに受けてくれちゃうなんて思ってなかったから。あんたなら避けられるだろうって、…あんたがあそこまで酷い怪我するなんて、…本当」
「…いや、あの、そこまでは」
「本当にごめん」
そう言って頭を下げた。慌てたように言葉を返そうとしていた幸村もその時ぴたりと黙り、しばらくの間、座敷はしんと静まり返った。
 謝罪への答えはない。