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臨帝短文集

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『 愛に力のあることを 』





 「『愛には力がある』っていうの信じられる?」
 「はい?」

 日頃から人ラブとか人ラブとか臆面も無く発言し、ついでに最近帝人君ラブとかも言い出した男の言葉に、帝人はちょっと警戒しながら返事をした。突然人の家に上がり込んできたと思ったら、この人はまた何を言い出したんだろう。そういう気持ちが声にも表情にも出てしまっている。

 「ある大学病院の研究結果だけどね。難治性の病にかかった患者を二つのグループにわけて、片方のグループに対してお祈りをするんだ。ボランティアを大量に雇って、顔を見たこともない患者のために『治りますように』とか『その人が健やかに一日を過ごせますように』とか祈ってもらうの。そうするとね、祈ってもらったグループの患者の多数に数~20%程度の症状の改善がみられたそうだよ」

 ひらひらと身振り手振りをつけながら、立て板に水の調子で説明する。

 「つまり他者のために捧げる祈りには、希望を実現する力が少なからず備わっているということが証明されているんだ。そして祈るのはなぜだい?そこに人間への愛があるからさ!」

 にこり、と微笑む様は、彼をよく知らない者が見れば好青年としか映らないだろう。まるで自分がその実験とやらに参加したかのように嬉しげである。

 「つまり愛には力があるってこと。人間って本当に面白いよねえ!頭の中で誰かのことを考えるだけで、相手に現実的な影響を及ぼすことも不可能ではないなんて」
 
 「…それは、興味深い実験結果だと、思いますけど。それで臨也さんは何が言いたいんですか?」

 「えー、わからない?」

 かわいこぶって首なんか傾げてみせる年上の同性を、帝人は可能な限り冷たい目で見てやった。人間の思念が他者に影響を及ぼす実行力を多少なりとも持つからなんだというのだ。いや、やたら楽しげな臨也の表情を見ていると、これから彼がどんなことを言い出すかは薄々想像がつく。こんな表情の時彼がなんと言うか、自分は最近よく知っているのだ。

 「帝人君、すき!大好き!愛してる!」
 「はいはい」
 「だから帝人君も俺の事を好きになるべきだよね、いやなってくださいお願いします」

 両手を胸の前でしっかりと組み合わせ、わざとらしいほど大袈裟に祈りのポーズをとりながら愛を口にする臨也に、帝人はため息をついた。自分の予想はあたった。別にあたってほしくはなかったのだが。

 「……その、実行力を持つお祈りとやらは、本人の意思を逆方向にねじまげるほどに力があるんですか?」
 「それって遠回しに俺の事が嫌いだって言ってる!?太郎さんひどい!」

 甘楽ないちゃいますーなどと言いつつも、臨也はやたら楽しそうな笑みを崩さない。

 「ねえ、帝人君。俺は本当に君のことが好きなんだよ」
 「そうですか、それはどうも」
 「君のことが好きになる前の俺は、人全般に俺の持てる愛の全てを注いでいたのにね」

 それが今では愛情の大部分が君にいっちゃった、君だけに。
 呟く声がいつになく真摯に聞こえて、帝人はちょっと目を見開く。半分聞き流していたようなもので、しっかり臨也の方を向けてはいなかった視線も、ちゃんと相手の目にあわせた。それに気づいた臨也は、ふと柔らかく微笑み、再び口を開く。

 「つまり、君以外の人間は俺からの愛を失って、その分不幸になってしまうかもしれないということだよね」
 「はい?」

 一瞬聞き間違いかと怪しんだが、臨也は本気かどうかわからない笑みを浮かべたまま続けた。

 「だってそういうことでしょ?これまで俺は人に愛を注いできた。目に見えるほど劇的な効果はなかったかもしれないけど、その想いのおかげでちょっと幸福になれたひとだっていたかもしれないじゃない?朝気分よく目が覚めたとか、今日も一日大過なく元気に過ごせたとか」

 でも、と臨也は歌うように言う。

 「俺が君を愛してしまってからは、俺は君のことばかり考えている。もちろん人間に対する愛情がなくなったわけじゃないけど、君以外のヒトのことを考える時間というのは大分減ってしまったからね。これは大変だよ。もしかしたら俺からの愛が足りなくなったがために、理由も無く不機嫌になったり、最悪の場合病気から回復せず命を落としたり、なんてことさえ無いとはいいきれないじゃないか」

 「…臨也さんの人類愛がそこまで人々に影響を及ぼしていたとは知りませんでしたよ。さすがですねって言えばいいんですか?」

 「褒めてくれてどうも、この人殺し」

 唐突に罵られて困惑する。そんな帝人に、臨也はいっそ無邪気な表情で語りかけた。

 「ああ、安心して。俺の愛を奪った君に怨嗟の声が響いても、俺が君を守ってあげるからね!俺は君を愛してるから。そう、俺からの愛が失われたばかりにそこの道をゆくあの人が明日不幸になるかもしれないことも、あの病院に入院している患者さんが儚くなってしまうかもしれないことも、全部君の所為だけどね!世界中の人から少しずつ幸せを奪っている気持ちはどうかな?」

 「やめてくださいよ人聞きの悪い言い方するの!」

 「ああ、なんて残酷なんだろう。あちらをたてればこちらがたたずと言うわけだね、君一人のために」

 「だーかーら!」

 大きな声を出しかけて、けれど帝人はピタリと動きを止めた。興味深そうに見つめる臨也の目の前で、わざわざ見せつけるようにゆっくりと両手を組み合わせ、祈りの形をとる。

 「へー、俺の分君が祈ってあげようってわけ?世界人類のために?」

 「そんなんじゃないですよ」

 瞳を閉じて、心持ち顎を持ち上げて天を臨む角度になる。

 「僕は臨也さんとは違いますから。世界中のひとなんて愛せませんし、祈ってあげようなんて上から目線でもないです」

 そもそも他人のためにするお祈りじゃないですから、と言いおいて、後は一心にお祈りするふりをする。途中で臨也が「あ、もしかして俺が君のこと好きじゃなくなりますように!とか考えてる!?」と尋ねて来たが聞こえないふりをした。

 (世界中のひとにはごめんなさい。この人の愛は譲れません)

 それからちょっと考えて、もう少し自分も素直に好意を表すことができるようになりますように、もしくは言わなくても臨也さんが察してくれますように、と結構本気でお祈りすることにした。



作品名:臨帝短文集 作家名:蜜虫