時を刻む唄
「つまみ食いをしたからもう食べられませんなんて言い訳、【帝人お母さん】は一切聴かないからね♪」
そう言い捨て、彼がにこやかにコタツの上に置いたのは、露西亜寿司のサイモンが配達に使うような寿司桶と同じぐらいの大皿だった。
鳥のから揚げ、分厚いトンカツ、魚のフライ、小魚の掻き揚げ、サツマイモとにんじんとジャガイモ、そしてピーマンを丸ごと揚げたもの、最後は海老のてんぷらが、山積みになって盛られている。
彼が冷蔵庫にあった食材を、手当たりしだい調理したのはミエミエで。
真っ白いご飯とお味噌汁、それに多々あるソース、天ツユ、しょうゆが、コタツの台を一杯使ってど~んと並べられる。
「さあ、しっかり食べてね♪」
瞬間、杏里の耳に、確かにフードバトル……、嫌、大食い選手権のゴングの音が鳴り響いた気がした。
帝人の手料理を食べ残す事は、死亡フラグの発動開始である。
文字通り顔から血がすうっと引いた。
どんなに彼の手料理が美味でも、こんな油っこいものを、一度に大量摂取なんて、絶対無理!!
杏里と正臣はお互い顔を見合わせた後、『もう二度とつまみ食いはしません、ごめんなさい』と二人揃って土下座して謝ったが、帝人母さまはやっぱり厳しかった。
「野菜はきちんと摂らなきゃね。猛暑のせいでまだまだ値段も高いし。それとも、一ヶ月ぐらい、三人で日の丸弁当頑張る? そしたらもう一回、タラバ蟹で沢山コロッケ作れるかも♪ 楽しみだよねぇ♪♪」
食い物の恨みは恐ろしかった。
もし一個でも彼の分を取っておいてあげられたのなら、多分結果は違った筈。
もくもくと帝人が一人だけ、納豆のあっさり丼を美味しそうに頬張っている真横で、杏里は正臣と二人、胸焼けしそうな油料理を口に入れ続けた。
そして翌日の朝も、昼の弁当も、しかも夜までかかっても、二人は完食するまで許されなかったという。
FIN