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めかくしセカイ

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 [再会]


 夜九時、半助は夜の道を一人自宅に向かって歩いていた。寝不足がたたり、作業がはかどらずにこんな時間にまでなってしまったのだ。利吉に会いに行かなくなれば或いは夢も見ないのではないかと思ったが、それは全くの間違いだった。相変わらずの頻度と鮮明さを以てして、夢は繰り返されている。半助は疲労を滲ませた溜息を吐いた。
 段々と秋から冬の気候になってきたのか、今晩は随分と肌寒い。昼間は日差しが出ていて暖かかったのになどと考えながら、いつの間にかついていたアパートの階段を上る。鞄から鍵を取り出しつつ、視線を上げると、自宅の扉の前にだれかが座り込んでいた。それがだれか、すぐには信じられず、思わず半助は足を止めて相手を凝視する。そうしているうちに、その相手がこちらに気付いたようで、慌てて立ち上がった。
「夜分に突然すみません。お久しぶりです」
「ああ、うん、久しぶりだね」
 ぺこりと頭を下げて、彼――利吉は言った。拍子抜けするほどに前と変わらぬ様で挨拶され、とっさにどう反応していいかも解らず、間抜けた返事をしてしまう。
「今日は土井さんに話があってきました。少しだけ、お時間をいただけないでしょうか」
 利吉はじっと半助を見つめながら、そう言った。その様子は真剣そのもので、利吉は決して遊びに来たわけではない事を半助は悟った。おそらく、あの夢の事だろう。
「お願いできませんか」
 重ねて利吉が問う。半助はすぐにでも首を縦に振ってしまいたいと思いつつも、理性がそれを抑え込んでいた。利吉とはもう会わないと決めただろう、と自身を叱咤する。
 半助はひとつ息を吐くと、意識して無表情の面を顔へと貼り付けた。利吉がたじろぐのが解る。胸が痛んだが、ここで動揺しては元も子もない。半助は自分の気持ちを押し殺しながら、口を開いた。
「私には君と話すことなんてないよ。悪いけど、仕事帰りで疲れてるんだ。帰ってくれないかい?」
 あえて利吉を真っ直ぐに見据えて言い放つ。心臓がきりきりと痛み出したが、半助はおくびにも出さずにただ黙って耐えた。これが利吉のためでもあり、自分のためでもある。
 何も言い返す事のない利吉に、やはり傷ついているのだろうかと様子をうかがっていると、不意に利吉が小さく笑った。驚きに目を見開いている半助へ、利吉が一歩近づいてきた。それから両手で半助の手を包んでくる。
「相変わらず、つれない方だ。その上、嘘を吐くのがお上手でいらっしゃる。土井さん……いえ、土井先生」
「……っ! その呼び方……」
「申し訳ありませんが、帰るだなんてできません。今ここでお伝えさせてもらいます。……私は貴方が好きです。夢の中だけじゃなく、この現実の世界でも。貴方を愛しています」
 突然の告白に、半助はただただ驚くばかりだった。利吉を茨の道に巻き込むまいと思い、距離をとった。だが、それは意味をなさず、こうして利吉は自分へと思いを伝えてきている。その様子は真摯で、嘘偽りは感じられない。
「……私もあれから、随分と夢を見ました。おそらく貴方と同じ夢を。ですが、勘違いしないでいただきたいんです。私はあの夢を見始める前から、貴方に惹かれていました。あくまで夢は自覚するきっかけになったにすぎません」
「利吉くん……」
「もし貴方の気持ちが既に決まっているなら、今ここで返事をもらえませんか?」
 痛みすら感じるほどに真っ直ぐな視線を向けられ、半助はたまらず視線をそらした。理性は気持ちを受け入れるべきではないと叫んでいる。利吉と会わないと誓った理由はなんだったのかと。
「……解っているだろうけど、いまこの世界で男同士の恋愛なんて、社会から冷たい目で見られるし、つらい事だらけだよ」
「解っています」
「可愛い女の子だっていっぱいいるし、君にはまだまだ出会いがあるだろう」
「確かに女性はたくさんいますし、可愛らしいとも思います。ですが、私にとって一番愛しいのは貴方なんです」
 利吉は迷うことなく、きっぱりと言い切った。徐々に顔に熱が集まってくるのが解る。半助は黙りこんだ。利吉も問いを重ねる事はなく、黙っている。
 相変わらず理性はやめるべきだと叫んでいる。実際、その通りだろうとも思う。だが、目の前の利吉を見てしまうと、そしてその真摯な言葉を聞いてしまうと、はねつけることなどできなかった。ましてや、自分も同じ気持ちを抱いているのであるのだから、なおのことである。半助は一度大きく息を吐くと、相手を真正面から見つめ返した。
「……まったく、君も相変わらず直球だなあ。加えて、物好きだ。夢だけじゃなくて、現実でまでこんな私がいいなんてね」
「!土井先生、それじゃあ……!」
「いいかい、こんな恥ずかしい事は、一度しか言わないぞ。……私も、君が好きだよ」
 告げた途端、半助は思い切り利吉に抱きしめられていた。僅かに身長が低い利吉の髪の毛が、うなじを擽る。
「……信じられません……」
 強すぎるほどの力で抱きしめているくせに、利吉の声には覇気がなかった。半助の返事が予想外だったのだろうか。そのギャップが妙におかしく、半助が僅かに吹き出しながら、利吉の背中へ腕をまわし、をぽんと叩いた。
「さっきも言ったが、もう一度は言わないぞ」
「解っています。なんというか……場所が許すならば、貴方に声を大にして愛を語りたい気分です」
「それは流石に遠慮してほしいなあ……とりあえず、中に入るかい?」
「はい、そうさせてもらいます」
 苦笑いと共に言えば、利吉が素直に頷いた。半助は手に持ったままだった鍵で扉を開ける。喫茶店に行く代わりに、部屋の掃除などをして休日を過ごしていたおかげで、部屋は人を上げられる程度には片付いていた。不幸中の幸いだなあなどと思いながら、軽くあたりを見渡して、何か見られて恥ずかしいものがないかだけ確認し、利吉を中へと通す。
「お邪魔します」
 律儀に挨拶をしてから、興味津津といった体で利吉はあたりをきょろきょろとみている。その間に半助は押入れから座布団を引っ張り出した。
「はい、これ使って」
「あ、わざわざすみません」
 利吉が空いてるスペースに座布団を置き、座った。自分もまた向かいあうような位置に座る。
「……それで、おそらく純粋に私に言いたい事とやらは聞いたわけだけど、夢の話はする気はあるかい?」
「そうですね、私たちが同じ夢を見ている事を確認したいですし、ぜひ」
「わかった。……それなら、これを見てもらったほうがいいかもしれないな。ちょっと待って」
 そう言うと、半助は奥の棚へと手を伸ばし、夢日記を取り出した。口で説明するよりも、実際に見てもらった方が楽だと考えたのだ。そこには『利吉』と『半助』が恋人同士であることも書いてあるわけだが、もうすでに現在恋人になったわけなのだから、見せてもなんら支障はあるまいと思い、手渡す。
 利吉は初め不思議そうに首を傾げていたが、数ページ捲ったころにはこのノートの主旨を理解したようで、暫くの間、読みふけっていた。待っているだけというのも暇なので、半助は利吉に断りをいれてから、猫のきり丸へと夕飯を用意し、ゲージに入れた。話し合いの最中にうろうろされては落ち着かないからである。
作品名:めかくしセカイ 作家名:和泉せん