二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

妖鬼譚

INDEX|10ページ/49ページ|

次のページ前のページ
 

*****



「何やねん、これ!?」

目の前に聳え立つ、学校の『笑いの正門』もかくやな立派な構えの門に、謙也はポカンと口と目とで三つの丸を形作る事しか出来ない。
光に連れられて謙也が向かう事になったのは、光の自宅だった。何でも彼の家にその専門家が居候として住んでいるらしい。が、その家がこんな立派な門の中にあるというのは、全く想像していなかった。

「何って、玄関に決まってるっすわ」

さらりとそう言うと、光はその門を潜って中へと入っていってしまう。慌ててその後を追い掛けた謙也は、更に腰を抜かし掛ける事になる。

「何処の時代劇の世界やねん、此処は……」

黒々と闇の中に浮かぶ門と同じかそれ以上に歴史を感じさせる重厚な造りの武家屋敷に、既に暗くなっている為灯篭から照らされる明かりだけでは把握出来そうに無い広大な面積がありそうな庭園。
自分の家もそこそこに広い方だと思っていた筈の謙也だったが、その認識は今この場で完全に改められる事になった。

「こっちっすわ、忍足先輩」

と、光はまたまた厳しい空気の漂う玄関ではなく、母屋とは渡り廊下で繋がっている離れへと直接足を運ぶ。どうやら目的の人物はこちらにいるらしく、襖を透かして人影が見えた。

「先輩、居りますよね?居らんでも勝手に失礼しますわ」

そう言うなり乱暴に襖を開ける光に、礼儀が足らんやっちゃな、と思いつつも、それ以上に『専門家』とやらはどんな人なんやろかと興味津々で中を覗き込んだ謙也は、今迄で最大級の衝撃を食らう事となった。

「光がアタシのトコに来るなんて、珍しいやない」

襖を開けた先、薄明かりの元で古文書らしき古びた帳面を紐解いていたのは、謙也と同じ部活仲間の金色小春だったのである。

「あら、そこに居るの、ケンヤ君やないの。益々珍しいお客様もあるモンやね」

光の後ろで固まっている謙也の姿に気付いた小春は、ニコリと笑ってみせたが、未だに脳機能が回復しないのか、無反応のままである。そんな謙也の状態を完全に無視して、光はさっさと本題に入ろうとする。

「小春先輩、質問があって来ました」
「あら、それは四天宝寺中三年金色小春への質問?それとも……金色家次期当主への質問かしら?」
「勿論後者に決まってるっすわ」
「……それなら長くなりそうやし、二人共、そこに靴脱いで上がりなさいな」

そう言って、小春は部屋の隅から臙脂色の座布団を二枚引っ張り出す。
促されるまま離れへと上がった二人は、手際良く小春が淹れた緑茶を飲んで、一息付いた処で、今迄の経緯をざっくりと説明してみせた。――とは言っても、話したのは光が九割以上で謙也の台詞は「俺は鬼門なんかやない」という光の推測への否定の一言のみだったのだが。

「まあ、そんな訳で小春先輩、何や心当たりありません?」
「そうねぇ……」

と、話を一通り聞き終えて首を傾げて色々と考えていた小春は、難しい顔をして口を開いた。

「確かに今回のケンヤくんは、かなりのレアケースやね。アタシも同じ人が一日に複数回襲われたなんて話は初耳やわ」
「て事は、やっぱりアンタは……」

と、腰を浮かせようとする光だったが、それを制するように小春は言葉を続けた。

「せやけど、日単位の短期間に複数回ってのはアタシも知らないけど、週単位や月単位で何回も狙われとる人ってのは過去何人かおった筈よ」
「………」
「それに光が言っとるように、ケンヤくんが鬼門にはアタシには見えないのよ。アタシも光の『鼻』を疑ってる訳やないんやけど」

そう言って、小春は対面に座っている光の鼻を軽く人差し指で突いてみせる。この状況を『小春命』を公言している一氏ユウジが目撃したら、「浮気かぁっ!?」と絶叫して暴れるだろうな、と謙也は何となく思う。

「ちゅーか、鼻ってコイツの鼻、何か特別製やったりするん?」
「ああ、それはね」
「ちょっ、小春先輩、それは言わんでええですわ」

慌てて光は悪戯っぽく笑う小春の次の台詞を阻止しようとしたが、それは無駄な努力に終わってしまう。

「光は、ウチの一族の中で唯一鬼門の気配を匂いとして感じ取る事が出来るんよ。見た目やと人と全く区別出来へんような鬼門も、光ちゃんやったら騙されずに一発で分かるのよ」
「……何や麻薬犬みたいやな」

つい率直な感想を漏らした謙也の頭を殴り付け、ついでに鼻も捻り上げる光。どうやら自分でも常々同じ事を思っていたようだが、他人に指摘されるのは腹立たしいらしい。

「ま、アタシの見立てだけで不安やったら、後でユウ君にも確認して貰ったらえぇと思うわよ」
「えっと、ユウ君ってユウジの事やったりする?」
「それ以外にユウ君がおるんやったら、アタシ耐えられないわ」

そう言って、小春はパタパタと両手を振ってみせる。
更に飛び出た友人の名前に、もはや謙也はもう反応が出来なくなったらしく、緑茶を啜って現実逃避をしている。
そんな謙也に苦情した小春は、改めて光に向き直ると、今迄の何処か巫山戯た雰囲気からは一転して真剣な口調になる。

「ねえ、光。もしケンヤくんが鬼門やったとても、それを何年もアタシ達に隠し通せる訳が無いと思うんよ」

光の主張通り謙也が鬼門だというのならば、小学五年の時にテニススクールで知り合って以来、と考えると四年近くもの間、謙也は代々鬼門を退治して来た家の人間である小春とユウジを騙していた事になる。
一人ならば兎も角、二人もの鬼門に詳しい人間の目を誤魔化し続けるというのは、そう簡単な事では無い筈だ。

「もし『自分が鬼門である事に無自覚な鬼門』なんて物がおるんやったら、話は別なんやろうけど……」
「そんなモン存在する訳ないっすわ」
「せやから何度も俺は鬼門やないって言っとるやろ?えぇ加減に納得しいや、このド阿呆!!」
「――アンタが鬼門やないんやったら、今後もアンタを狙われ続けるって事になるんすよね。何やまた面倒な事になりそうやわ……」

と、憂鬱そうに呟いた光が謙也の手の中に押し込んだのは、初めて会った時に首元に突き付けられた短刀。唐突に押し付けられたずしりという鋼の重みに謙也は戸惑いを隠せない。

「な、何やねん、これっ!?まさか自分で戦え言うんか!?」
「ちゃいますわ。この刀、地面に刺せば結界――バリアが張れるんですわ。何時でもすぐに俺がアンタんトコ行ける訳でもないんで、緊急時にはこれ使って凌いで下さい」
「へー、そんな秘密兵器なんやな、これ。助かるわ、おおきに」

と、懐刀を渡した意図を理解した謙也は、素直に礼を述べたが光はぷい、と外方を向いてしまう。その様を見ていた小春が、興味深そうに茶々を入れて来る。

「何や珍しいわね、光ちゃんがそないに積極的に他人に関わろうとするなんて」
「別に関わりたくて関わっとるんとちゃいます」
「まあ、光がそう言うんやったらそういう事にしときましょ」

フフッと笑われた事が腹立たしいのか、光は不機嫌そうに目の前を睨んだが、小春は何処吹く風といった様子である。
その話題の中心の謙也はというと、新たに自分の物になった刀を収めている鞘の美しい螺鈿細工を眺める事に夢中で、話を全く聞いていないようだった。

作品名:妖鬼譚 作家名:まさき